妄想の地図帳
 「ひぐらしのなく頃に」が好きなおっさんが、二次創作やオリジナル物語を書いたりするとかしないとか。
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『 それぞれの絆 第三節 「竜宮 レナ ③」 完結 』
 みなさまこんにちわ。
今日は『 それぞれの絆 第三節 「竜宮 レナ ③」 完結 』をアップ致しました。
これにて絆、完結です。
最後だから、という訳ではありませんが、今までの物よりも、少し長いです。
お時間のある時に、どうぞ。
細かい事は申しません。どうか御一読頂ける事を、願います。
それでは、どうぞ!


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『 それぞれの絆 第三節 「竜宮 レナ ③」 完結 』


「うわぁ……。やっぱり魅ぃちゃん家はお風呂も脱衣所も、おっきいんだねえ~」
「今年改装したんだよ。去年までは五右衛門風呂だったんだよ? 薪だよ? 薪。今時そりゃ無いよねえ」
「そうなんだ。でも、薪で焚くお風呂も何だか風情があって、かあいいかも」
「いやいや、そりゃ使ってないから言えるんだってー。大変なんだよ? 殆どあたしと婆っちゃしか使わないのにさあ、毎日薪で焚くんだから。やっと今年変えて貰ったんだよ。ん、まぁ婆っちゃは渋ってたけどね。あははは」
 他愛も無い事を話しながら私は服を脱いで下着姿になり、バスタオルを巻いてから下着を脱いだ。
 服と下着をきちんと畳んで籠に入れる。
「おほー、可愛いブラ付けてるねえお嬢ちゃん? スカイブルーが眩しいっ。ぐっへっへっへ」
「も、もう魅ぃちゃんっ」
「おおっとレナパンは勘弁ねー。あっはっは! まま、冗談は置いといて。着替えのパジャマ、ここに置いとくから」
「わーっ。ピンクのパジャマさんかあいいんだよっ。だよ! はうぅー」
「コラコラ、お持ち帰るのはお風呂の後でしょ。先に入ってなよ。あたしもすぐ入るからさ」
「うー……。そうだね、パジャマさんは逃げないよね。じゃあ先に入ってるね、魅ぃちゃん」
「はいよ。ちゃんと綺麗に洗うんだよー」

 擦りガラスの引き戸を開けると、ガララと軽快な音がした。その向こうに、やはり個人宅としては随分と大きめの浴室が現れる。
 全体をベージュで統一した浴室は今年改装したと言うだけあって、タイルもぴかぴかで清潔感があって、気持ちが良かった。
 うっすらと真新しい塗装の匂いも嗅げる気がした。
 随分心が軽くなっていた私は、綺麗なお風呂に入れる喜びで、もうすっかり上機嫌。
 
 ――現状が何か変わった訳じゃない。
 でも、魅ぃちゃんとの繋がりを感じる事ができた。
 それで十分だった。

 浴槽の上に被せてある真新しい蓋を外すと、白い湯気が浴室の中に立ちこめて私の体を温めた。
 お湯のたっぷりと張ってある浴槽に手を浸けてお湯加減を見てみた。 ……ん~、良い湯加減だよー。
 お魎さんの為だろうか、壁の丁度良い高さに手すりがあったので、体に巻いていたバスタオルを解いて手すりに掛けた。
 壁に設置されている全身鏡が、ふと目に入る。目の下を赤く腫らせ、寝癖を立たせた、可愛くない女の子が写っていた。
 ちぇ。
 ペタペタと寝癖を両手で押さえつけて、ニッコリ笑ってみる。うん。笑顔は素敵。いつもの私。
 一糸纏わぬ自分の姿をしげしげと眺める。私の家のお風呂には、こんなにおっきな鏡なんて無い。だからかな、裸の自分を客観的に眺めているのって、何だか不思議で……ちょっぴり気恥ずかしかった。でも、ちょっと面白い。
 だから、ちょっとだけ、ちょっとだけ女優さんの様にポーズをとって遊んでみた。
 ……あ、あれ?
 お腹の肉、ちょっと……増えてる……ぷにぷに……ぷにぷに……き、気のせいだよね。よね!
 ふ、深く考えちゃ駄目だよ、竜宮レナっ。
 そ、そうだ! まずは体を洗わないとね!
 全身鏡の右手側の壁に五十㎝四方の正方形の鏡が取り付けてあり、その足元にピンクの丸い椅子と、シャンプー・石鹸がきちんと並べてあった。
 ……使っていいのかな――そう聞こうと思った時、
『あー、シャンプーとかは勝手に使っていいからねー』
 擦りガラス越しに先に答えが返って来た。凄いね魅ぃちゃん。超能力者みたいだよ。だよ。
「ありがとー」
 返事をしてから丸イスに座る。ちょっとだけお尻がひんやりとした。
 皆はお湯に浸かる前に、どこから洗うのかな? 私は髪から洗うんだよ。
 ……え? それは皆一緒だって? そ、そうなんだ。はぅ……。

 浴槽から洗面器でお湯を頂いて、頭からザバッとかぶる。
 前髪から滴る湯の糸を、何とは無しにぼーっと眺めた。
「……―― っふうぅー……」
 思わず声が漏れた。今日は気持ちの浮き沈みが激しくて、疲れちゃったかな……。
 お湯の温もりが、じんわりと体に沁み込んでいくのが分かる――。
 ふーーっ、ともう一度長い溜息を吐くと、お湯の流れと共に今日の疲れが流れて消えていった。
 もう一掬いお湯を使わせて貰ってから、シャンプーを手に取って髪の毛全体に馴染ませる。
 どうやらリンスも一緒になっているタイプのシャンプーらしい。面倒臭がりの魅ぃちゃんらしいな。
 私の家で使っているのとは違うメーカーのシャンプーだったから、ちょっと違和感があったけれど、香りが気に入ったのでこの際気にしない事にした。
 ガララッ
 シャンプーをお湯で洗い流していると、引き戸が開けられる音がして魅ぃちゃんが浴室に入ってきたのが分かった。
 この年になって誰かと一緒にお風呂に入るなんて事、そうそう無いよね? だから……ちょっとドキドキした。
「おっ待たせー。旦那様のお帰りだよー!」
「あはは、もう魅ぃちゃん何言って……って、ふわ。あ……はぅあぅ」
 振り返った私の目の前に、若草が茂っていた…………って、えぇ?!
 心臓が飛び出るかと思った。
「ん? どしたのレナ。羽入みたいな声だして?」
「う、ううん何でもない何でもないっ! けけけ、けどっ! そ、その……魅ぃちゃん、もうちょっとその……かっ、隠すとか何とかしてから、入ってきても良いんじゃないかな、かなっ?」
 そうなの。シャンプーを洗い流して振り向いたらね、手に持ったタオルを肩に掛けて、小脇に丸イスを抱えた魅ぃちゃんが仁王立ちしてたの。
 座ったまま振り返った私の視線の先には、丁度魅ぃちゃんの、その、あの…………はぅう、魅ぃちゃん大人……。
 慌てて見上げたら、メロンが二つたわわに実ってた。ああん、こっちも大人だようぅ~。
 そっと視線を落としてみる。…………も、桃……かな、かな?
 あけっぴろげな魅ぃちゃんを見ていると、何だかこっちが恥ずかしくなってしまって、私の方が色々隠してしまった。
 
 ――べ、別に『負けたーっ』とか『スタイル良いなー』とか、そんな事思ったんじゃないもん! ……ないモン……。

「ふぇ? 何言ってんのさレナ。お風呂なんだから、どっちみち丸見えでしょー」
「そ、そうだけどぉ! ……はうぅ」
 赤い顔でしどろもどろしている私にはお構い無し。魅ぃちゃんは私の前に丸イスを置いて、それにドカッと座って二カッと笑った。
「さささお客さん、お背中流して差し上げましょー」
「え……ふえぇ?! い、いいよ魅ぃちゃんっ。そソそっそんなのレナ自分でやるかっかからっ」
「え~、良いじゃん流しっこしようよ~」
 魅ぃちゃんは口を数字の「3」の形に尖らせて抗議をした。
「みみっ魅ぃちゃんととっと! せな、セナっ背中のなが、流しっしししーしーっ!」
「ちっちゃい子におしっこさせてるんじゃ無いんだから……。はいはい、壊れる前に始めちゃおうね~」
「は、はうっ」
 魅ぃちゃんは私の肩をムンズと掴むと、独楽の様に綺麗に百八十度回転させてしまう。
 私は頭の天辺から蒸気が噴き出しそうな程カチンコチンで、顔も体も真っ赤になってるのに、背後の魅ぃちゃんは鼻歌交じりでタオルに石鹸を馴染ませている様子だった。
 私の背中を洗ってくれている魅ぃちゃんは何だかとっても楽しそう。
 ちょっとくすぐったかったけれど、私も幸せだった。
「はふっ。み、魅ぃちゃん、脇腹はくすぐったいから自分でやるよぅ。――わきゃぅっ?!」
 脇の下を洗って(くすぐって?)くれていた魅ぃちゃんの手が、突然私の胸を鷲掴みっ?!
「ちょ、ちょっ、魅ぃちゃん?! だ、駄目っ。揉んじゃ……ひぁっ」
「ん~良いなぁレナ。可愛いおっぱいで。形も良いし。あたしの何てバカ見たいにでっかくて邪魔でさぁ……はぁ」
 そう言ってる間も、魅ぃちゃんは揉み揉みし続けてて……ん……何だか変な気持ちに――
「って違うぅ~! もぅっ、駄目だよ魅ぃちゃん。くすぐったいんだからっ」 
「あははゴメンゴメン。――やー、なんだか楽しいねえ。ちっちゃい頃、詩音と洗いっこしてたのを思い出すよ。詩音も凄いくすぐったがりでさぁ」
「はぅ、くすぐったがってる詩ぃちゃんかぁいいかも~。レナは一人っ子だから、姉妹って何だかうらやましいなー。仲良し姉妹なんだね。だね」
「すっごいちっちゃい頃だけどね。まあ仲は良かったかな? ……よしっ、と。ほい、じゃあ流すよー」
「はぁーい」
 洗面器のお湯を肩から掛けて泡を洗い流してくれる魅ぃちゃんの手が、やわらかであったかくて、気持ち良かった。
「そう言えばお風呂に入ってる時は髪を解いてるから、魅ぃちゃんと詩ぃちゃんはほんとに同じだったんだろうね。はぅ~、かぁいいよう」
「くっくっく! そうそう。お風呂ではほんとにどっちがどっちか、お母さんも分かってなかったねぇ。――あの頃は、ね」
「?」
「ぃよっし終了! よーし今度はメイドレナさんに、私の背中を流してもらおうかなーっ!」
 ポンッと肩を叩かれて交代を促された。
 背中を流してもらうのもドキドキしたけど、魅ぃちゃんの背中を私が洗うと思うと、もっとドキドキしてきた。
 ――あ、鼻血拭かなきゃ……
 嬉しいやら恥ずかしいやら。とにかく私は有頂天でタオルを掴み、丸イスの上でお尻を滑らせて魅ぃちゃんの方へ振り向いた。
「は、はぅはぅはうーっ! じゃ、じゃじゃじゃあじゃあ、れれレナがミ、魅ぃちゃんのせ、背中を洗っ……ちゃ…………ぅ……」

 一瞬息を呑んでしまった。
 マズイと思ったけれど、もう手遅だろう。
 私の動揺は、魅ぃちゃんに伝わってしまったに違いない。
 魅ぃちゃんの腰の上辺りに、手の平を開いた程の大きさの…………鬼の顔を模した刺青が彫ってあった。

「ぁはは。……やっぱちょっと引いた? ……噂位は聞いた事あるでしょ? 園崎家党首の、刺青の事」
「あ……う、うん…………でも……魅ぃちゃんも、とは……思って無くって」
「見せるのは初めてだよね?」
「……うん」
「……どう? 結構おっきいのかな? 背中ってさ、自分の体なのに、自分で直接見れないんだよね。鏡で見ても良く分からなくてさ。……やっぱり……目立つ?」
 首だけ振り向かせて私に問いかける魅ぃちゃんの笑顔は少し寂しそうで、それでいて優しげだった。
「どう……かな。模様も含めて、私が手を開いた位の大きさ……。顔だけなら、こぶし位……」
 目立たないよって言ってあげたほうが良かったのかも知れない。
 意外と小さいんだねって言ってあげたほうが良かったのかも知れない。
 でも、魅ぃちゃんがこの刺青を私に見せるまでの心境を考えると、いい加減な返事をしちゃいけないと思った。
 何で魅ぃちゃんが私に刺青を見せる覚悟を決めたのかを考えれば、私もいい加減な事を言っちゃいけないと思った。

「触っても……いいかな?」
「うん。いいよ」
 そっと刺青を指でなぞると、魅ぃちゃんは「んっ」と声を漏らして小さく体を震わせた。
「れ、レナ。触ってもいいけど、その、もうちょっとビシッと触ってくれない? く、くすぐったくってしょうがないよ! あは、あははは」
 それには答えず、私は魅ぃちゃんに質問をした。
「…………痛かった?」
「え?」
「彫る……って言うのかな? ……痛かったでしょ? 魅ぃちゃん」
「…………うん、痛かった……。訳も分からずさ、突然『今日からお前は次期頭首だよ』ってさ、ベッドに寝かされて、手足も押さえられてさ……痛くて……怖かった」

「望まない……傷……」

「――――そぅ……だね。でも、これは私の傷……紛れも無く、『私』の傷なんだ」
「見たくない傷…………見られたくない……傷、だよね? ……なんで、私に……?」
「レナは……あたしの所に来てくれたじゃない。――あたしもレナには、出来るだけ隠し事はしたくないから……さ。……随分自分勝手な話もすると思うけど……聞いて欲しい」
「うん。……いいよ」
 タオルを湯につけて軽く絞り、石鹸を馴染ませた。
 首筋から背中を洗い始めた時に聞いた魅ぃちゃんの「ありがとう」は、いつに無く真剣だった。

「……別にこんな刺青自体は、もう最近はそんなに気にして無いんだよ。これを見たからって――そりゃ、多少はビックリするとは思うけどさ、レナ達のあたしを見る目が変

わったりなんかしないって、分かってるから。そうでしょ?」
「うん。ちょっとビックリしちゃったけど……個性の一部みたいな物だと思う。自分で彫った物なら、リボンや髪型と一緒だね。……問題は、それを入れる事になった経緯や、柵(しがらみ)……」
「はは……。流石にレナ相手だと話が早いね。……この刺青はさ、言ってみれば園崎家の悪習……雛見沢を取り巻く、古い忌まわしい記憶の塊みたいな物なのさ」
「詳しい事は分からないけど、魅ぃちゃんを縛り付けている物の大きさとかは……何となく理解できるよ」
「ありがと。……色々とね、あった。大変な事もあったし、辛い事も、幾つかあった。――特に詩音には沢山の迷惑を掛けて、非道い仕打ちもした。……この辺りの事は……聞かれれば答えるけど、できれば細かい事は端折らせて貰いたい」
「魅ぃちゃんの話したい事だけ話してくれれば良いよ。――はい魅ぃちゃん。右手上げて」
「へ?」
「腕も洗わなきゃ。右手上げてー」
「あ、う、うん」
 魅ぃちゃんは、本来余り話し上手なほうじゃない。だから出来るだけ普通に話ができるよう、私も出来るだけ普通に接するように心がけた。
「ごめんね。話の腰を折っちゃった。続けて欲しいかな。かな」
「あ、あぁ、うん。――まあ兎に角、時代錯誤な『しきたり』を、今も持ち続けているのが園崎家なんだよ。それを恨んだ事も、正直何度もある。……自分がさ、『園崎』の人間であるって事を意識して、人と付き合う時もどこか距離を置いてた。あまり近づいちゃいけない、仲良くなっちゃいけないって」
「……でも、魅ぃちゃんは帰って来たばかりの私にも優しくしてくれたし、沙都子ちゃんが弱り切っている時に部活を立ち上げてくれたよね。私、凄く嬉しかった」
「うん、それはそうなんだけどさ……。あたし、家の事にはなるべく触れないようにしてたでしょ? 自分が触れられたくないから、自然と皆の家庭の事にも触れないように、そう接してきた」
 魅ぃちゃんは浴場の入り口を見詰めたまま、言葉を紡いでいた。私も魅ぃちゃんの体を洗いながら、静かに耳を傾けた。
「圭ちゃんが仲間に加わってからは、もうハチャメチャに楽しかったよね! いつも楽しくてワクワクしてた! ……でもね、いつも何処かモヤモヤしてた。……皆と仲良くなればなるほどね、『なんであたしは園崎家の人間なんだろう?』って、思う時が増えた」
 魅ぃちゃんが家柄を重荷に思っている事は知ってた。その事には触れて欲しくないと、薄膜を貼ったように、柔らかい隠蔽を図っているのも感じていた。
「だからね……1年前……レナがさ、自分の家庭の事情を私に相談しに来てくれた時は……凄く嬉しかった」
「嬉しかった?」
「そ。嬉しかった。御免ね不謹慎でさ……。でも正直な気持ち」
「うぅん、良いよ。――でも、どうして?」
「レナがね、私『個人』に相談してくれたから。……かなり重大な家庭の事情だったよね? 多少なりとも『園崎』との関連もある事なのに、レナは純粋にさ、友人の『魅音』に相談してくれたじゃない? それが……凄く嬉しかった」
 肩越しに振り向いて、魅ぃちゃんはニッコリと笑った。
「それと同時にね、レナは凄いなって尊敬した。余り人には言いたくないだろう、家庭の事情を打ち明けられる勇気。本当に解決しなくちゃいけない問題を真っ直ぐに見て、逃げなかった勇気。それに何より、人を信頼する勇気……レナは本当に強い子だ……って思ったよ」
 私はそんな立派な子じゃないよ……そう言おうと思ったけれど、魅ぃちゃんの話を促す事にした。
「……その信頼すべき対象に、私は魅ぃちゃんを選んだんだよ?」
「うん。それが凄く嬉しくて……あたしにも勇気をくれたんだ。レナのように、自分の問題に真っ直ぐに向き合う勇気を、ね」
「そうなんだ……えへへ、何だか嬉しいかな。かな」
「……そのお陰でね、昨日、覚悟を決める事が出来たんだと思う」
「……覚悟?」
「そう、覚悟。…………あたしね、圭ちゃんを園崎の運命に巻き込む覚悟ができた」

 洗い終えた魅ぃちゃんの背中を流している手が、思わず止まった。
 お夕飯を戴いている時の胸の痛みが、また少しだけ蘇ってくるのを飲み込む。
「例え……圭ちゃんを傷つける事になっても、あたしは悔やまない。あたしの全てを圭ちゃんに知って貰いたい。その上で、一緒に運命を作り上げてやる! ……って覚悟をさ、決めたんだ。……たかが中学生が大袈裟かもしれないけれど、あたしは本気だよ」
 そこまで言うと魅ぃちゃんは私に向直り、真剣な表情で私の瞳を真っ直ぐに貫いて、言葉を紡いだ。
「あたしは、本気だよ。…………もう一度聞くよ、レナ。…………レナも圭ちゃんの事が……好きだった……よね?」
 魅ぃちゃんを洗い流したお湯が流れていく音が聞こえる。
 静かな夜で、それ以外の音は何も聞こえなかった。
 静寂の中、うっすらと湯気に煙る白い肌は、穢れを知らぬかの様に眩しかった。
 私を真っ直ぐに見据えるその瞳は、意志の強さを示すかのように凛々しい。
 私は――その瞳に答えるには、もう少し……混沌としていた。
「魅ぃちゃん………………お風呂、入ろ? 湯冷めしちゃうよ」
「――レナ……」
「うん。ちゃんと答えるから……ね、お願い」
「…………そうだね。……ゴメン。今日はお泊りだしね。ゆっくり話を聞かせて貰おうかなっ」
 私の頭を優しく撫でてくれる魅ぃちゃんは、やっぱり少しだけ強くなっていると感じた。

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 新築の立派な浴槽は長方形で、二人が向かい合って足を伸ばして入れる広さがあった。
 沙都子ちゃんか梨花ちゃんのどちらかなら、まだ一緒に入れる余裕があるんじゃないかな?
 最初魅ぃちゃんは浴槽には浸からず、浴槽の淵に腰掛けて居た。
 その……すっごく目のやり場に困ったから、お願いして浴槽に浸かって貰ったの。
 魅ぃちゃんと同じ質量のお湯が豪快に溢れて流れ出していく様子を眺めていると、何とは無しに心地良かった。

「凄いね。二人入っても足が伸ばせちゃうお風呂なんて、羨ましいな。いいないいなー」
「無駄にでっかいよね。母さんに改装の事頼んでたらこんなのが出来上がってさぁ、あたしもビックリしちゃったよ」
「あっははは。魅ぃちゃんのお母さんらしいね。でもそのお陰で、こうやって魅ぃちゃんとお風呂に入れているんだから、レナは嬉しいかな。かな」
「成程、そりゃ言えてる。たまには母さんも良い仕事するねえ」
 あははと笑いながら、私は向かい合う位置から、魅ぃちゃんの横にスススッと移動した。
 狭い側に二人が肩を並べると流石に窮屈で、肩や腕がピッタリと密着した。
「ちょ、レ、レナ? 何もそんなわざわざ狭っ苦しい並び方しなくても……」
 私の行動の意味が分からず、紅い顔で動揺している魅ぃちゃんが可愛かった。
「えへへ。……さっきのお話の続き…………しよ?」
 悪戯っぽく笑って見せると、それとは対照的に、魅ぃちゃんは真剣な表情を作ろうと努力を始めた。

 ――お湯を両手で掬う。
 湯鏡に映った私を見つめながら、私は言葉を紡いだ。
「私ね……本当はまだ自分でも良く分かっていないんだけど……特定の人を好きになるとか、付き合うとか……そういう感情がね、うまく持てないみたいなの」
「――え、と、どういう事?」
「恋愛とかには普通に興味があるの。それが人の事ならね、普通に考えられるの。……だから魅ぃちゃんの気持ちも分かったし、相談にも乗れたと思う。でも、それを自分に当てはめたらね……うまく考えられなくなっちゃうの」
「それは……私だってそうだったよ。だからレナや詩音に相談に乗って貰っ――」
「ううん、そうじゃない。そうじゃないの。……そうじゃなくて……感情がね、持てないの」
「…………ゴメン。良く、分かんない……」
 申し訳なさそうな魅ぃちゃんの顔が、湯鏡に映っていた。その横には、自嘲気味に笑う私の顔が揺れていた。
「――本当はね、この名前で呼びたくも無いんだけど――お母さん……が浮気をして出て行った話……したよね?」
「……うん。聞いた」
「凄く恨んだ。あの人も許せなかったし、その相手も許せなかった。その相手と仲良くしてしまった、自分が一番許せなかった。何もかもが許せなくて、全てを壊したの」
「…………」
「茨城の話はあんまりした事ないよね? 引っ越した茨城ではね、楽しく過ごそうと思って頑張った。お友達も沢山できたんだよ? 男子のお友達も居たの。カッコいいかなーって思う子も、居たよ」
「レナは可愛いからね。そりゃ男子もほっとかないよ」
「でも壊した」
「――壊っ……な、何……で?」
「四人で楽しくお話してたのにね、ちょっとした事がきっかけで、それまでの楽しい時間が崩れた。――気が付いたら……友達も校舎のガラスも、それまでの関係も……バットで叩いて……壊してた」

 話している内に、目の前がチカチカして気分が悪くなった。甲高い耳鳴りが頭の中に鳴り響いて、視界が闇に落ちていく。
 気が遠くなって体が支えられない。
 顔が濡れる感じがした時、抱き抱えられる感触で意識が戻ってきた。どうやら前のめりに倒れてしまったらしい。
 意識を失ったのはほんの一瞬だったみたい。だけれど驚いた魅ぃちゃんは必死に私を抱き抱えて、名前を呼んでいた。
「レナ! レナ?! 大丈夫っ??」
「魅ぃちゃん……? あはは、ゴメンね……。やっぱりちょっと……この部分は端折って良いかな……?」
「もういい! もういいよ! ゴメンよレナごめん!! もういいからっ。あたしが悪かったよ。もう止めようこの話は」
 泣きそうな魅ぃちゃんは、兎に角心配そうだった。
 大丈夫、大丈夫だよ魅ぃちゃん。
 ……私はもう、大丈夫。魅ぃちゃんが居るから大丈夫……。そうだよね? 魅ぃちゃん。
「ダメだよ魅ぃちゃん。……レナの事、魅ぃちゃんに知ってもらわないと……。お願いだから、聞いて……ね?」
「でも……でも……っ」
「魅ぃちゃん……背中の刺青……家族以外に見せた事は……ある?」
「え? ……無いよ。レナが、初めて」
「やっぱり。……えへへ。一つ圭一君に勝ったぞぅ? ……なんてね」
「レナ……」
「私もね……このお話をするのは、お医者さん以外では魅ぃちゃんが始めて。お父さんにも私からは言ってないの。……だから、お願い。最後まで、聞いて……ね」
「……ぅ……――分かった。…………聞く。ちゃんと聞くよ。最後まで、ちゃんと聞く。あたしがちゃんと支えてるから……最後まで聞かせてよ」

 魅ぃちゃんは私の横から後ろに移動して、腋の下から手を回した。
 私が沈んじゃわないようにと、後ろからギュッと抱きしめてくれていた。
 少し震える魅ぃちゃんの腕と、背中に当たる豊かな胸の膨らみがとても温かかった。
 こんな時だと言うのに、その大きさにちょっとだけショックを受けている自分が可笑しかった。
 回された魅ぃちゃんの腕を、胸の前で両手を合わせるように、そっと握り締める。
 ただそれだけの事で、驚くほど心が落ち着いた。
 心が溶けて、お湯と一体になっていく様な気持ち。
 心に響く幾千の言葉よりも、ひと時の肌と肌の触れ合いが人の心を癒す時があるのかな――そんな事を思った。

 一つ……二つ……私は深呼吸をした後、誰にも話した事の無かった、雛見沢に帰ってくるまでの経緯を魅ぃちゃんに打ち明けた。
 学校での出来事。病院へ入院していた事。オヤシロ様の事……出来る限りを打ち明けた。
 魅ぃちゃんは私を傷つけまいと、平静を装おう為に一生懸命努力していた。
 時折私を抱きしめる腕に力が入り、動揺が伝わってくる事もあったけれど、そんなの気にもならなかった。
 だって魅ぃちゃんが私を拒絶する事なんて絶対に無いって、分かったから。
 ――今までだって、確かにそう思っていた……。
 でも、私達は女の子で、圭一君は男の子……。
 
 いつか『友達』って言う仲間の絆から変化が訪れて、誰かが居なくなったり、何かを失うかもしれない。
 だって私はそれを今まで幾つも見てきたし……体験してきたんだもの。
 お母……あの人は消えた……。茨城の友達も……もう、違う。
 でも、魅ぃちゃんは居なくならない。――絶対だ! ……って、圭一君なら言うと思うな。
 何で言い切れるかって? だってね、今魅ぃちゃんが言ってるもの。

 ――――「好きだよ」……って。「私はレナが大好きだよ」って、ずっとね……耳元で聞こえるもの。

 凄く不器用だなって思った。
 不器用で上手じゃなくて、色んな心が篭もって、それでも表現できなくて、出来上がった「大好き」
 不器用なその「大好き」が、私の心の器にコロコロと転がって来る。
 沢山沢山転がって、空いていた筈の心の穴は、いつの間にか「大好き」のコンペイ糖で埋まって見えなくなっちゃった。
「私もだよ」って答えたら、魅ぃちゃんが頭をクシャクシャって撫でてくれた。凄く気持ち良かった。

 ―― お風呂に入ってたの忘れちゃってたよ……はうぅ。
 一通り話し終えた頃には二人ともすっかりのぼせてしまって、真っ赤な茹でダコの出来上がり。
 フラフラになりながら脱衣所でお互いの髪を拭きあっている茹でダコ二人は、もうすっかり笑顔だった。

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 夜も更け、私達二人は魅ぃちゃんの部屋にお布団を敷いてその中に居た。
 さっきのかぁいいパジャマもゲットして、すっかり就寝OK! ――な状態だったけれど、まだまだ話は尽きなくて、おしゃべりはずーっと続いていた。
「わー、魅ぃちゃん頑張ったねえ! はうぅ~、ロマンチックなんだよ~~」
「そっそそそ、そんな事無いってぇ! な、なんて言うかそのあの、昨日はただ必死だっただけでさっ。……あ、あは、あはははっ」
 と言いつつ真っ赤になった魅ぃちゃんは、布団の中にすっかり隠れてしまった。
 昨日の成り行きを(脅迫して)事細かに説明(白状)してもらった。
 正直言ってビックリしちゃった!
 魅ぃちゃん大胆! それにあの鈍感な圭一君が、そんな事できるなんて思いもしなかった!
 魅ぃちゃん蓑虫を見ながら私は……やっぱり少し羨ましかった。
 魅ぃちゃんが……じゃ無くて、魅ぃちゃんをここまで喜ばせられる圭一君が、羨ましかった。

 ――圭一君は、私にとっても大切な人だ。
 親友と呼ぶのに、何の恥ずかしさも無い。
 でも、やっぱり異性として……例えば、私が圭一君と付き合う、と考えると……心に薄い膜が張った様になって、感情がついて来ない。
 その手の冗談にはすんなり乗る事もできるし、想像して照れたりもできる。
 でもそれはあくまで冗談であって……。
 真剣に考えてみようとした事は何度かある。でも、その度に嫌な過去を思い出してしまい、考えるのを止めた。
 でも……何か……違う。でも、そんな風に抵抗があるって事は、やっぱり私も圭一君を……? ……でも、でも。
 いつまでも「でも」がループする。そんな抜け道の無い、思考の螺旋に囚われる。
 
「……レナの気持ちの壁はさ……今日打ち明けたからハイ解決! って言う問題じゃ無いと思うんだ」
 外界からの呼び声に、ハッと我に返った。いつの間にか魅ぃちゃんはお布団から顔を覗かせていた。
「これはさ、レナの問題で、レナだけの物なんだ。……私なんかが答えを出せる問題じゃない」
「うん。分かってる……。答えを見つけるのは私自身だよね……。でも、あのね…………今のままでも、十分幸せなんじゃないかな? って、そう思う気持ちもあるの。無理に嫌な事に触れなくても良いんじゃないかなって……思う気持ちもあるの。……違うかな? 魅ぃちゃん……」
 心のどこかにある、本音の一部だった。
 お父さんは元気になった。
 沙都子ちゃんも救われた。
 梨花ちゃんもとんでもない陰謀から命を救われた。
 魅ぃちゃんと圭一君も傍に居てくれている。
 十分なんじゃないかなって思う。例え私が男女関係に思いを寄せられないとしても、それは些細な事なんじゃないだろうか。

 ―――― そう思ってる?

 …………じゃあ、何で……私は魅ぃちゃんに疑問系で問いかけたの?
 魅ぃちゃんに……「それは違うよ」って……言って貰いたかった?
 答えを求めて魅ぃちゃんの瞳を見詰めた。いや、その瞳に映る自分を見詰めていたのかも知れない。

「レナの幸せって、何だったっけ? さっき大喧嘩の時――その前だったかな? に聞いたと思うけどさ。もう一度、教えてよ」
「え……レナの、幸せ? んっと……ね、私は、皆の笑顔が好き。だから、皆が笑っていられる、その中に居たい」
「だったよね。じゃあ、やっぱりレナは自分の問題に向き合っていかなくちゃいけないよ」
「……? んっと。……ん? 誰かが笑顔じゃないのかな? 私のせいで??」
 要領を得ない答えに戸惑った。答えを促すように見つめると、魅ぃちゃんはちょっと呆れたように微笑んで答えた。
「レナだよ。肝心の、あんたが笑えてないじゃない」
「わたし?」
「うん。心から笑えちゃあいないね。となるとだよ? レナと一心同体のおじさんとしては、だ。こりゃあんまり嬉しい状態じゃあない訳だ。ここまでは良いね? ん?」
「う、うん。……魅ぃちゃんと一心同体……はぅ」
 魅ぃちゃんはまるでTVドラマの探偵さんが、最後の謎解きをしているかのような口調で話した。
「そうすると私も心からは笑えない。そうするとレナが幸せと定義する所の『皆の笑顔』が失われるわけだよ。そしたらレナは幸せじゃない。それを見て私はまた笑えなくなって――とまあ、こうスパイラルする訳だよ竜宮レナ君。分かるかね?」
「……ふえぇ、非道いよぉ。じゃあ私は、いつまで経っても幸せになれないのかな? かなぁ?」
「レナぁ~。もうちょっとこう、良い方に考えて行こうよぉ。つまりだね、根本であるレナを幸せにすれば、レナの理想系である「皆の幸せ」に一歩近づけるって事じゃないのさ?」
 魅ぃちゃんがグッと親指を立ててウィンクをして見せた。その余りにも自信満々な態度が可笑しくて、思わず吹き出した。
 吹き出した私を見て魅ぃちゃんは照れたようにデヘヘと笑った後、少し表情を引き締めなおして言葉を続けた。
「――さっきも言ったけどさ、やっぱり向き合っていくべき問題だと、あたしは思うよ」
「辛くても……?」
「うん。……あたしは何の力にもなってあげられないかも知れないけれど……傍に居る事は出来る。辛くてどうしようもなくなった時……抱えきれなくなった分を、処分してあげる事位は出来る。今日みたいに、さ。 あたしが絶えられなくなった時も、レナが傍に居てくれたなら、きっと頑張れると思うんだ」
「魅ぃちゃん……」
「ゆっくり向き合って行こうよ。お互いの『望まない傷』ってやつにさ」
 魅ぃちゃんが右手を差し出しす。
「……うん。魅ぃちゃんがそう言うなら、私、そうする。魅ぃちゃんを、信じる……」
 私はその手を、少しためらった後……しっかりと握り締めた。

 …………でも本当に良いのだろうか? だって……私がトラウマ(?)を乗り越えたとして……もしその結果……

「レナが壁を乗り越えてさ……もし、圭ちゃんを好きだって思ったなら――」
 魅ぃちゃんも同じ事を考えていた。圭一君を好きだったなら……?
 魅ぃちゃんは少し俯いて顔を隠した。数瞬後に上げた顔は、笑顔だった。握り締めた手に力が篭っていた。
「――圭ちゃんに、その気持ちを打ち明けなよ! きっとそうするのが一番良いよ」
「……でも……魅ぃちゃん……」
「ただぁし! 覚悟しといたほうが良いよ、フラれるから! 残念だけど圭ちゃんはあたしを選ぶからね!」
「ふ、ふえぇ?」
「まあでもその痛みもレナの第一歩だよ! うんうん。そうやって人は大きくなっていくんだよ。頑張れ! レナ!!」
「そっ――そんな事ないよ! レナだって負けないよ?! レナが圭一君をお持ち帰りするんだよ! だよ?!」
「無理無理! 圭ちゃんはあたしを選ぶって。あたしは100%信じてるからね。間違いない!」
 そう言う魅ぃちゃんの顔は、冷や汗だらけだ。
「……魅ぃちゃん、目が泳いでるんだよ? だよ?」
「ほ、ほぇっ? そそ、そんな事無いって!」
 お互いしばらく睨み合った後、どちらからとも無くあははと笑い合った。

「レナ、ごめん。その……無責任な事、言うよ? ――もうさ、その時は正直、仕方ないよ。……お互いやれるだけやって、後は圭ちゃんに任せよう」
「そうだね。それしかないかな……。そうなったら……どうしてもどちらかは、傷付くね」
「うん。……それでも……例えそうなっても――そりゃあ、時間は掛かるかもしれないけど――あたし達は、いつか笑顔で会える時が来る。……だから、探そう。レナの……幸せを、さ」
「……頑張るよ、魅ぃちゃん」
「勝手な事ばっか言ってゴメ……って、ちょ! あんた何やってんの?! 何であたしの布団に入ってくるのさ?!」
「えへへへへ」
 私は魅ぃちゃんのお布団に潜り込んで、魅ぃちゃんの胸に顔を埋めた。魅ぃちゃんはあったかいな……。
「私ね、魅ぃちゃん……男の子はね、ダメだけど、そのね……女の子なら、何にも抵抗はね、無いんだよ……?」
 私が潤んだ瞳で見上げると、魅ぃちゃんは真っ赤になって照れてる様な、怯えるような顔をしていた。
 ――か、
 かかっ! かぁいいんだようぅ~~!!

「ちょ、ちょちょちょっ!! れれれレナ!! じょじょ冗談でしょおおおぉおっ?!」
「はっ、はうっ! はうはぅっ! きょ今日の魅ぃちゃん、かかか、かっこ良かったんだようぅーー!!」
 半分冗談。半分……ちょっと本気かも……。
「ぎゃーーーっ! や、やめ! やめーーっ! お、おじさん初めてだから優しくしてーーっ!」
「ここっ怖くないよ! 怖くないからね魅ぃちゃん?! わっわたわた、私に任せてーっ! はうぅーーっ!!」
 一時間後お魎さんに拳骨を貰うまで、私たちの大騒ぎは続いた――。

-----------------------------------------------------

 今朝、私は魅ぃちゃんと一緒にお家を出るまで、はぅはぅ言いっ放しだった。
 しょうがないよね? 自宅以外で過ごす朝って、すごく新鮮でドキドキの連続だったんだもん!
 だってね! まず最初に、目が覚めた瞬間に見たのが魅ぃちゃんの寝顔なんだよ?!
 涎がタラーって垂れてて、それでねそれでね! 瞼が半分位開いてるんだよ?!
 起きてるのかと思ってドキッとしたんだけどね、寝てるの!
 くーくーって、寝息立ててるんだもん! 半分目を開けて! はぅう~、かあいかったんだよぅ。
 あんまりかぁいいから、ギューッって抱きしめたら、あっという間に起きちゃった。
 ちょっと残念だったかな。はう……。
 それから一緒に顔を洗って一緒に朝御飯。お手伝いの妙子さんが朝御飯を作ってくれてたの。
 誰かに朝御飯を作って貰うなんて本当に久しぶり。ちょっと気が引けたかな。かな。
 妙子さんも一緒に食べましょうってお誘いしたんだけど、離れでお魎さんと食べるからって、断られてしまった。
 魅ぃちゃんと一緒に食べる朝食は、とっても美味しかった。
 その後は歯を磨いて制服に着替え。歯ブラシは魅ぃちゃん家のを貸してもらったんだよ。
 みっ魅ぃちゃんの使った歯ブラシ! は! はうぅ!! って思ってたら、新品だった。
 今日二回目の、ちょっぴり残念な出来事だった……。はうぅ……。
 着替えが終わってから、お互いの髪をセットし合ったの。すっごく楽しかった!! 学校に行くのを忘れる所だったんだよ?
 私が魅ぃちゃんのポニーテールを結う係りだったんだけれど、どうしても我慢できなくなって、三つ編みにしちゃった。
 ……って、ここから先は、最初にもう話してたよね? えへへ。あんまり楽しかったから二回話しちゃった。ごめんね。
 楽しい時間を惜しんでいたから、私達が圭一君との待ち合わせ場所に到着したのは、時間ギリギリになってからだった。
 でも圭一の姿は無かったの。――あ、そうか。レナが迎えに行ってないから、お家で待ってるのかな? 
 悪い事したかな? と思っている時、遠くから手を振って来る圭一君が見えた。

「なんだよレナ、来てたのかよ? 迎えに来てくれないから、危うく遅れる所だったぜ」
「圭一君は、いつまでもレナに頼ってちゃ駄目なんだよ! だよ!」
「そーそー。圭ちゃんも早いとこ一人前にならないとね。あたしの抜けた部活メンバーを引っ張っていけるのか、心配だわこりゃ」
「な、何だあ? 何で俺は朝っぱらからお前ら二人に責められてんだよ? ってかなんで二人一緒なんだ?」
「くっくっく。ゴメンねぇ圭ちゃん。――おじさん達はもう、身も心も離れられない仲なのさ~。ね? レナ」
「は、はうぅ~! みみっ身も!! そそそうなんだよそうなんだよっ。み魅み魅ぃちゃんとわたわた、私はっいい一身どどど……っ」
「はいはいレナ壊れすぎ壊れすぎ~」
 鼻血を吹いてクルクル回る私に、魅ぃちゃんが修理チョップをお見舞いしてくれた。
 訳が分からず呆気に取られている圭一君を色んな意味で置き去りにして、二人の世界全開の私達は、朝の雀さん顔負けな賑やかさで学校へと歩き出した。

「――おっ、ちょっ? ま、待てよ魅音っ。どう言う事だよレナーーッ!」
「ぷっ! あっはっはっはっはっ。行くよレナ! 圭ちゃんなんか置いてけぼりだーっ!」
「あっはは! 行こ行こ魅ぃちゃん! 二人で楽しく登校なんだよーっ!」
 駆けて行く魅ぃちゃんの背中に、私は駆け寄って抱きついた。

 心の歯車が、朝日に照らされてキラキラと黄金色に輝いている。

 
 ――形は変わるだろう。でも、この絆は失われない。
 痛み傷付き、悲鳴を上げる事もあるだろう。
 太かった絆は、細く細切れになる事もあるだろう。
 ――だけれども失われない。
 細切れになるからこそ、それぞれの絆はより複雑に、より強く絡み合い編まれて行くのだから。
 ――深く心に刻まれる。
 それぞれの絆は、やがて一つの絆となる。
 
 その事を彼らが疑わないのだから。



―  それぞれの絆  おわり  ―


-----------------------------------------------------

最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
これにて「それぞれの絆」シリーズは終了です。
私なりに、三人の関係に決着(?)をつけたお話です。
ご都合主義? そんな部分もあるかもしれません。
でも、こんな世界も、あって良いですよね。

次回は、公式掲示板未発表のSSをアップ予定です。
その時はまた、読んで下さると幸いです。
それではまた!


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この記事に対するコメント

>――――「好きだよ」……って。「私はレナが大好きだよ」って、ずっとね……耳元で聞こえるもの。
うおおおおお!! 俺も大好きだぁぁぁああ!!
このシーン心打たれました。うん、やっぱ想いはストレートに伝えるのが一番ですねw
レナ魅はいい…ただの仲良しじゃない。本当の意味での親友と言えるでしょう。
ここまで素敵な二人を描いてくれたコンボイさん。大好きだー!w

加筆部分大変萌えましたw
レナさん、魅音の身体を詳しく説明していただいてどうもでしたw
鷲掴みw 魅音、というかコンボイさん自重しろwww いや、やっぱしなくていい。
あのまま、変な気持ちになってしまう展開もよろs(グシャ

と、そして次回は久々の新作なんですね!
今度は誰のお話なんでしょうか? 沙都子かな?
楽しみにしとりますぜー!
【2008/05/10 00:35】 URL | だいぶつ #gIYQI5Sw [ 編集]


>だいぶつさん
>うおおおおお!! 俺も大好きだぁぁぁああ!!
吹いたwww 有難うww
自分の書いた物で、少しでも心を動かしてくれる人が居ると思うと、凄く嬉しい!
>ここまで素敵な二人を描いてくれたコンボイさん。大好きだー!w
更に吹いたwww そして有難う!
男として、その気持ちは受け止められないけれど(笑)、物書きの端くれとしては、本当に有難く受け取ります! ありがとう!!

加筆部分は、色々やり掛けて、無難にまとめましたww
デモその分、今度の記念絵にぶつけてしまってますのでお楽しみにww

次は沙都子の、何でも無い一日のお話です。
魅音は出ないからだいぶつさんには向かないかな。
だいぶつさん、いつもありがとう!
【2008/05/11 04:31】 URL | cvwith #- [ 編集]


コメントおじゃまします。
魅音の本気の「覚悟」にすごく憧れます。
簡単に決められる「覚悟」じゃなくて
だからこそ、憧れる、というよりそうなれるように、
私も強くなりたいなーって思いました。
それぞれの絆の魅音は本当にステキで
まっすぐで強くて、それでいて女の子で
魅音の魅力をいっぱい発見出来ました!

また次の作品もこっそり楽しみにしてます!

あ、レナと一緒に魅音の悩殺ボディにも
すごく憧れました。ww
【2008/05/15 23:48】 URL | krt #mQop/nM. [ 編集]

腰が痛いのは、辛いですね。
腰が痛いのは辛いものです。
私も14年間悩まされました。

私が考案した腰痛解消法をお試しください。
現在、日本で一番多く実践されるようになりました。

【3分腰痛解消法】で、検索すると見つかります。
腰をお大事に。
【2008/07/17 05:36】 URL | 腰痛アドバイザー #- [ 編集]


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岡山に生息。
カレーは混ぜてから食べる派です。
「ひぐらしのなく頃に」の二次創作を中心に、ショートストーリー(SS)を書いています。
「うみねこ」もちらほらとやってます。
いずれオリジナルも書いてみたいと野望を持っております。

メアド : kdksf1@mail.goo.ne.jp
「@」を半角にして、ご使用ください。
感想・ご意見・イラストなど随時激烈に大歓迎中です!



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