妄想の地図帳
 「ひぐらしのなく頃に」が好きなおっさんが、二次創作やオリジナル物語を書いたりするとかしないとか。
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百の母 千の母
 これは母の日の記念日に公式に投稿した作品です。
多少加筆・修正しました。
そう言えば一つ書き忘れていました。
私のひぐらし二次創作SSは、基本的にパソコン版を基準にしてあり、
『皆殺し編の沙都子救出の後、祭囃子編に繋がってループを抜けた』
あとのお話、と言うIF設定で成り立っています。(例外もあります)
まあ余りお気になさらずとも問題ありませんが、お伝えしておきます。
今回は「賽殺し編」の話が少し出てきます。
が、ひぐらしをプレイされて居られる方であれば賽殺し編を未プレイの方にも、
安心してお読み頂けると思います(笑
前置きが長くなりました。お時間がありましたら、御一読下さい。

母の日記念SS 『百の母 千の母』


「羽入?! 羽入ぅーっ」
 祭具殿裏の藪の中で私は羽入を探し続けていた。
 走り回った上に大きな声を張り上げ続けたせいで、喉の奥で血の味がする。
 まだ五月の午前中だと言うのに太陽は意地悪で、私の華奢な体は弱音を吐いている。
 羽入が居そうな場所は殆ど探しつくした。
 神社、私達の家、学校、レナの家……商店の駄菓子屋も探した。
 一番最初に探した祭具殿に戻ってもう一度その中を探してみたけれど、どこにも羽入の姿は見つけられなかった。
 右掌がジンジンと疼く。
 もう一時間以上も前の事なのに、自己嫌悪を誘うその感触は一向に消えてくれない。

 ――今朝……私は羽入に手を上げた――

 -----------------------------------------------------------

 昭和五十九年 五月十三日

 きっかけは些細な事だったと思う。よく思い出せない位だから本当に些細な話題。
 確か私の飲酒の事で羽入が抗議をしたか何かだったと思うわ。
 そう、いつもの事。
 忌まわしいループを乗り越えた去年のあの日以来、私の飲酒は逃避の手段じゃない。
 純粋に味を楽しむ、密やかな趣味なのに。
 アルコール度の高いお酒は羽入が嫌がるからと言う理由で、甘酒やアルコールの低いワインだけにしているのに、それでも羽入は「あうあう」といつもうるさい。
 普段なら適当に相槌を打って受け流す事のできる会話だった。
 羽入も「今日こそは梨花を改心させてやるのです!」と意気込んでいる様子でもなかった。
 ただの、いつもの会話――。
 だけど私は少し違ってた。私は今日、羽入にお願いしたい事があったんだ。
 素直にお願いをしようと、朝起きてから心の準備をしていたのに……いきなり文句を言われて、素直になれなくなってしまった。

「あんな甘くない飲み物、おいしくないのです! それに子供はお酒を飲んでは駄目なのですよ」
 ガミガミと小煩いお説教がいつもより耳障りだった。
 私のお願いを、端から否定されている気分。
 まだ何も言っていないのだからそんな筈は無いと理屈では分かっていても……気持ちは付いてこなかった。
「梨花は分からない事だらけなのですよ……あぅ」

 その言葉がきっかけだった。それはハッキリと覚えている。
 何故かは分からないけれど、その言葉を聞いた時、一気に頭に血が昇った。
 目の前の羽入に無性に腹が立って……気が付いたら――

 パシン!
 乾いた音が響いて、手の平が熱くなっていた……。

 何が起こったのか分からず、キョトンとした羽入の横顔。
 痛みによって徐々に事態を飲み込んでいったのだろう。
 頬に手を当ててゆっくりと私に振り向くと、羽入は――姿を消した。
 姿を消す間際の羽入の泣き顔が、瞼から離れない。

 どれだけ村中を探しても無駄だと言う事は分かっていた。だって羽入は姿を消せるのだから。
 そうなれば重力にも縛られないし、物理の法則だって意味が無い。
 私が羽入を探して走り回っていたのは、あの子に出てきて欲しかったから。
 真剣にあなたに謝りたいんだ、と知って欲しかったから。
 でも、羽入は姿どころか……声すらも聞かせてはくれなかった。
「羽入……出てきてくれないの? 今日は…………一緒に居て欲しかったのに……」
 そう。これが私の願い事。
 『今日は一緒に居て欲しい』
 何の事もない、ホントに些細な願い事。
 いつも一緒に居るのだから、お願いですら無いかもしれないのに。
 取るに足らないプライドが私の邪魔をする。
 自分の本心を曝け出すのが怖い臆病者。
「……仕方無いわよね。私が悪いんだもの。天邪鬼な自分がつくづく嫌になるわ」
 祭具殿の石段に座り込み、呟く声は羽入には届かない――。

 -----------------------------------------------------------

 小高い丘からは雛見沢が一望できた。
 私の『お気に入り』の場所程では無いけれど、十分に雛見沢村の魅力を伝えてくれるこの場所は、だけれども普段人がおいそれと足を運ぶ場所ではなかった。
 何故ならそこは祖先の霊達が静かに眠る、厳かな場所だったから。
 若干西に傾きかけてはいるけれど、まだまだ今日は日差しが強い。
 気が早いかな、と思った麦わら帽子は、被って来て正解だったわね。
 わたしは雛見沢の景観にお尻を向けて、せっせと草刈に勤しんでした。
「んしょ。ふぅ。……んっと!」
 雛見沢も全国の田舎の例に漏れず、お墓参りや先祖供養といった昔ながらの信仰行事はまめに行われている。
 綺麗に手入れが行き届いた墓石が立ち並ぶ中、しかし明らかに私の居る一角だけが荒れ放題だった。
 額から零れ落ちる玉の汗も構わず、左手で雑草を三束ほど纏めて掴み、その根元を右手に持った鎌でざっくりと切る。
 最初は一束ですら上手く切れなかったけれど、今では上手に切れるようになった。
 鎌を手前に引くようにするのがコツなのよね。
「でも……これ、は思った以上に……っ。重労……働……ねっ。こんな事なら……んしょ! こまめに来て、おく、んだったわ……っね!」
 掴んで刈る、掴んで刈るを1時間ほど繰り返して、やっと墓前だけでも綺麗にする事ができた。
「ちょ、ちょっと休憩……」
 さ、流石に疲れたわ……。
 雑草が無くなり露出した地面にへたり込み、空を仰いで大きく溜息を吐いた。
 やれば出来るもんね。うふふふ。
 ……まだ途中だけど。

 手提げ袋の中から水筒を取り出し、蓋コップをクルクル回して外して琥珀色の飲料を注ぐ。
 トクトクと言う音を聞いているだけでも、火照った体から熱が抜けていくようだ。
 波々と注いだ液体を一気に喉に流し込むと、スーッと体の芯から疲れが抜けていった。
「――っはー。美味しい!」
 もう一杯注ごうとした時、サワサワと周囲の木立が揺れた。
 村から吹き抜けてくる気持ちの良い風は、春の香りをまだ含んでいた。
 なびく髪を流れに任せ、風の吹く方へと目を向けると、美しい村の全景が見渡せた。
 本当に美しい村だと思う。色んな事があって、時には辛い思いに心が淀んだ時もあったけれど、やっぱり私はこの村が大好きだ。
 ここに生まれた事に感謝した。
 そして……今日は私を生んでくれた人に感謝する為に、ここに来ていた。
 振り返り、灰色の御影石の石碑に声を掛けた。

「あなたも飲む? ………………お母さん……」
 風に吹かれる墓石は、心なしか気持ち良さそうに見えた。

 墓前に跪き、麦茶を注いだ紙コップを水鉢の上に置いた。
 ああ、心配しないで。さっきから飲んでるのは泡の出ないやつよ。
「気の効いた飲み物でなくてごめんなさい。ちょっとうるさいのが居るの。……本当はそのうるさいのも連れて来るつもりだったんだけど……ちょと、ね」
 麓の売店で買ったお線香にマッチで火を付けると、独特の香りが辺りを満たしていく。
 香炉の上には落ち葉や土塊が積もっていた。それを手で払い、お線香を置く。
 見れば石碑自体もかなり汚れてしまっていた。
「……3年ですものね。去年あの『夢』を見てからも結局来れず終いで……」
 香炉と同じように汚れていた水鉢を綺麗にしてから紙コップの麦茶を移し、水鉢に満たす。
「……ううん、違うわね。私にとっては百年。……百年も放置してしまって、本当に御免なさい。お母さん」
 お母さん……そう呼ぶまでに、私は一体どれだけの時間を費やしてしまったのだろう?
 母が死ぬ事に何の疑問も持たなかった時間を、どう償えばいいのだろう?
 夢の中の母は優しかった……ううん、そうじゃない。母は元々優しい人だった。
「素直じゃなくて御免なさい……私ね、本当に色々あったの……。百年生きていたって言ったら、お母さん信じてくれる? ――お母さんの知ってる私は、自分の事を『ぼく』って呼んでたでしょ? それも確かに私なの。……ちょっと長くなるんだけど聞いてね、お母さん――」
 
 私は今までの出来事を、お母さんにできるだけ分かりやすく説明してあげた。
 大方説明し終えて一息ついた所で、私は手提げ袋から新聞紙に包んだ一輪の花を取り出した。
「命日でも無いのにおかしいと思ったでしょ? でもお母さんと仲直りするのには丁度良い日だと思ったから……はい」
 大きな赤い花びらが幾重にも重なった綺麗な花は、風にその顔を揺らし優しく微笑む。
「供花としてはおかしいんだけどね。母の日だから……はい、カーネーション。……産んでくれてありがとう、お母さん。悪い娘でごめんね……お母さん」
 目を閉じて掌を合わせ、お母さんの冥福を祈った。

 また、サラサラと風が渡った。心地良い風が頬を撫で吹き抜ける。
 その優しさに、遠い昔嬉しそうに私の頬を撫でる母の手の温もりを思い出して……涙が少し、滲んだ。
 その時、緩やかな風の音に乗せて砂利を踏む音が聞こえた気がした。
 目を開けると、目の端に赤い袴が風に揺れていた。

「良かった…………来てくれたのね……ありがとう」
「あぅ………………梨花……痛かったのです」
「うん。ごめん。何であんな事しちゃったんだろう……本当にごめんなさい」
「…………梨花が謝ってくれたから、もう痛くなくなったのです。だからシュー一個でチャラにしますですよ♪」
 そう言って羽入は私の横にチョコンと座ると、ニコニコと屈託の無い笑顔を見せてくれた。
「ちょっとビックリしただけなのですよ。あうあぅ♪」
「……あなたのそう言うさっぱりして屈託の無い所、本当に羨ましいと思うわ」
 私の十倍も生きて(?)来た羽入がこんなにも素直になれるんですもの。私だってあなたみたいに素直になれるわよね。そうよね、羽入?
 朝、私が叩いてしまった羽入の白い頬をそっと撫でた。
 羽入はちょっとビックリした後、にっこりとまた微笑んでくれた。
「はぅあぅ~♪ 生身になって色々経験できて楽しいのです。……でもやっぱり叩かれるのより、撫でられる方が嬉しいのですよ♪」
「ふふ、そうよね。これからは楽しくて嬉しい事を一杯作っていきましょ。二人で一緒にね」
「もちろんなのですよ、梨花!」
 にぱ~☆ っと、本来の古出梨花のように笑ってみせた。羽入の笑顔を撫でた後、お母さんの方に向き直る。
「お母さん、ほら、さっき言ってた羽入よ。……ね、本当に居たでしょう? 百年の間、私に色々な事を教えてくれた人なの。私の大切な友達で…………私のもう一人のお母さんだと思ってる――って言ったら……お母さん、怒る?」
「あう?! ……梨花」
「本当よ……。私ほら、素直じゃないじゃない? だから、こんな日でもないと面と向って言えそうに無かったから……今日は羽入と一緒に居たかったの。……それなのにいきなり引っ叩いちゃって……ホントへこんだわ」
「り、梨花ぁ……あうぅ~」
「お、お母さんって言ったばっかりなのにベソかかないでよもう! ……うふふ。ね、面白いでしょ、羽入って。 ――これからは羽入と一緒に、精一杯。大切に生きて行きます。……だからどうか、見守っていてね。お母さん」
「ぼ、僕が梨花を立派にして見せますのです! 任せて下さいなのですよ!!」
 (何だか婿入りしたみたいな気分ね……)「ふふふ。それじゃあお母さんのお墓を綺麗にするの、手伝って頂戴。まだ途中なの」
「任せるのですよ! ピカピカにするのです! あうっ」

 独りでやっている時は、淡々としたつまらない作業だった掃除も、二人でやると楽しい遊びに早変わりした。
 布巾を水で濡らし、墓石を綺麗に磨いてあげた。長年積もり続けていたわだかまりも、一緒に洗い落とせたんじゃないかな、と思う。
 その後は必死の草刈大会。と言っても参加者は二名だけだけどね。これは大変だった!
 羽入が一緒じゃなかったら、正直言ってまたふて腐れてた気がするわ。

 お母さんのお墓と敷地がすっかり綺麗になった頃には、もう太陽は随分と西に傾き、辺りはセピア色に変わりかけていた。
 最後にもう一度お母さんの墓前に跪いて手を合わせた。
 薄目を開けてチラッと横を見ると、羽入も手を合わせてくれていた。
 視線に気付き、小首を傾げて私の顔を覗き込む羽入。
「……? 何ですか梨花。僕の顔に何か付いていますですか?」
「ううん、何でも無いわ。ただ、神様が人間のお墓に祈っているんだなあって思うと、ちょっと面白くて。くすくすくす」
「神様も人間も無いのです。僕は、梨花を産んでくれた人に感謝したのですよ。梨花が今、ここに居てくれる事に感謝しましたのです」
「あ…………う、うん。あ、ありがと……」
 直球ストレートの答えが返ってくるとは思っていなかったので思わずデッドボール。赤面してしまった。
「じ、じゃあそろそろ帰りましょ! お夕飯の買い物に行かなくちゃ!」
 誤魔化し半分にスパッと立ち上がって、緑のワンピースの埃をパンパンと払った後、傍らに座っている羽入に手を差し伸べる。
「さ、行きましょ。羽入」
「――ハイなのです♪」
 同い年としか思えない無邪気な笑顔で、私の手をギュッと握り返す羽入の手が暖かい。

 -----------------------------------------------------------

 丘を下る坂道で羽入は上機嫌。繋いだ私の左手と自分の右手をブンブン振り回して歩いてる。
 口癖の「あぅあぅ」が次第にリズムを刻みだし、鼻歌になり始めた。
 これはいつ聞いても笑ってしまうわ。
 ――確か始めて聞いたのは身体測定をした日の夜だったかしら?
( *「身体測定」のお話は、後日アップします。)
「あっははは! あんたその鼻歌レナに聞かせちゃだめよ? 間違いなくお持ち帰りされちゃうから。うふふふ」
「あ~うあうあっぅ♪ あぅあう~~♪」
「ふふふふ。――あ、そうだ羽入。実はね、プレゼントがあるのよ」
「あう? あ! シューですか?! 仲直りのシューなのですね?!」
 羽入の両目が十字星にキラリと輝く。
「んー……シュークリームじゃなくてごめんなさいね。――はい、これ」
 肩に掛けた手提げ袋から、それを右手だけで器用に取り出して、羽入に手渡した。

 新聞紙に包まれた、大きな赤い花びらが幾重にも重なって綺麗な、お母さんにあげたのと同じ、カーネーション。

「り、梨花……これを……僕に、くれるのですか?」
「さっき言ったじゃない。もう一人のお母さんだって。……ま、まあ半分親友みたいな感じだけど、ね」
「梨花……」
「余ったからあげるんじゃないわよ? ちゃんとあんた用に買っておいたんだから。今日あのまま会えなかったらどうしようかと思ったわ」
「梨花…………あうぅ……あうあぁ~~ん! り゛か゛あ゛あ゛ぁ゛~~!!」
 ブワワッと目の幅涙と鼻水を垂らしながら羽入が飛びついて来たのでギョッとした。
 物凄い勢いだったので危うく転びそうになったじゃないの!
「ちょ、ちょっと羽入! お、落ち着きなさいって! ちょっと!!」
「あ゛う゛あ゛う゛あ゛~~……嬉しいのです……嬉しいのですよ梨花ぁ」
 やっと離してくれたと思ったら、手を繋いだまま羽入が私の周りをクルクルと回り始めた。私も当然クルクル回ってる。
「こ、こら! 目が回るっ! 目が回るから!!」
「あうあぅ~♪ いつもお酒で目を回されているから、お返しなのですよ~。 あう~~♪」
「ちょ! 羽入っ……ぷっ……あははははははは!!」
 やれやれ、こんな子供っぽいんじゃあ、ちょっとお母さんとは呼べないわね……と少し意地悪な事を考えた。

 私の笑顔と羽入の笑顔が互いの手で繋がれて。
 ――羽入の左手には、赤色のカーネーション。
 ――私の右手には、赤いカーネーションを嬉しそうに抱えた、母の右手が添えられている……そんな気がした。
 右手には百年の母。左手には千年の母。
 その時の私は、百年前の古出梨花の笑顔で笑えていた――。


 ― おわり ―


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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

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Author:cvwith
岡山に生息。
カレーは混ぜてから食べる派です。
「ひぐらしのなく頃に」の二次創作を中心に、ショートストーリー(SS)を書いています。
「うみねこ」もちらほらとやってます。
いずれオリジナルも書いてみたいと野望を持っております。

メアド : kdksf1@mail.goo.ne.jp
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感想・ご意見・イラストなど随時激烈に大歓迎中です!



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