妄想の地図帳
 「ひぐらしのなく頃に」が好きなおっさんが、二次創作やオリジナル物語を書いたりするとかしないとか。
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約束 ― 選択肢のB ― ③
 みなさん今日はおはようございます。

はい、覚悟完了しました(笑
選択肢のB、アップです。
今回は魅音さんが覚醒してます。
んで純愛度アップ。エロスもアップです(当社比)

それではどうぞ!


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 ピピピピッ。ピピピピッ。
 九時半を指した目覚まし時計が軽やかな電子音で喚き立て、俺の目を覚まさせた。
 毎回欠かさず主人の指示した時刻に起こしていると言うのに、いつも乱暴に頭を叩かれその声を止められる目覚まし時計ってのは、随分損な役割だと思う。
「ん……っ。ふあぁ~。あふ……」
 普段と違う場所で寝たせいか腰と背中が痛い。リビングのロングソファから両足を降ろし、両腕を伸ばして大きく伸びをする。
 おお、気持ち良い。
 パキパキと音を立てて背筋を伸ばし、東側の窓から差し込む冬の薄い朝日に目を細めた。
 普段よりも遅い目覚め。この二時間の贅沢が、休日の一番最初の喜びなんだよな。
 スリッパを履き、寝癖だらけの頭を掻きながら洗面所に向かう。洗面所の引き戸を開けると、少し肌寒い空気が流れ込んできた。
 温水器のスイッチを入れ、待つ事数秒。蛇口から流れる水は白い湯気を立て始める。
 人肌に温もった気持ちの良い水を両手に掬った所で、二階から悲鳴が轟いた。
 意味不明の叫び声に混じって、「ここ何処?」やら「誰の寝間着よこれ」やら聞えてくる。

「朝っぱらからやかましい奴だな全く」
 顔を洗い、タオルで顔を拭いている間も随分と賑やかだった。
 部屋の扉の開く音に、ドタバタと階段を駆け下りる音。続けて壁に激突する音と「ふぎゃっ」と言う悲鳴。
 その後は急に静かになり、忍び足で廊下を歩くギシギシと言う音が近づいて来た。俺は洗面所の壁に背を預けて腕を組み、ポーカーフェイスで入り口を見つめて待った。
 暫くすると扉枠に親指以外の八本の指が掛かり、続いて翡翠色の髪と、眉尻を下げ、動揺しきった魅音の右目が現れた。
「よう。おはよう」
「お…………ぉはょぅ……」
「何してんだ入れよ。顔洗いに来たんだろ?」
「え? ……あぁ、うん……そ、そだ……ね。う、うん」
 返事はしたものの、モジモジしたまま中々入って来ない。手招きをしてやると、やっと入って来た。
 その姿を見て、思わず崩れそうになるポーカーフェイスを維持するのは、なかなかに大変だった。
 右手をお尻の方に回し、二つ程ボタンを外したシャツの前を左手で押さえながら、おずおずと入ってくる魅音。白地に水色の縦縞ストラップの入ったそれは、俺の寝間着だ。
 下に履いている、同じ柄のダボダボのズボンも、当然俺のだ。
 俺の寝間着を着て、恥ずかしさに頬を赤らめる魅音か…………イイ。
 俺が着せたんだって事は、今は思い出さないようにしておこう。朝のネタとしては、ちょいと濃すぎる。

 赤い顔で俯いた魅音は、何やら色々と問いた気な顔つきで前髪の隙間から俺を覗き見ていたが、俺は気付かない振りでポーカーフェイスをキープしてやった。理由は無い。ただの意地悪だ。
 何かを言い掛けて諦め、しょんぼりと肩を落し洗面台に向かう後ろ姿。
 ペタペタと言う素足の足音が、妙に悲壮感を強調してる。落ち込んだ姿が似合う女ナンバー1だな。
 ……ああ駄目だ。もう辛抱なら無い。口の端がにやぁと持ち上がっていくのを止められない。
 蛇口を捻る魅音の背後からそぉっと近づき、ポニーテールを結ったまま寝ていたであろう、その頭をわしわしっと掻き回す。
「わきゃぅっ。な、何するのよぅ圭ちゃんっ」
「わははは。何するもくそもあるか。寝癖だらけの頭しやがって!」
「えっ、嘘ホントに?! そんなに、ひどい?」
「あぁひどいひどい。だから直してやってんじゃねえかよ。うはははは」
「ちょ、やめっ。余計ひどくなるでしょーっ」
 振り向いた魅音は、グリグリと撫で回す俺の手を引き剥がそうと両手で掴んだが、慌てた顔で何故かすぐにその手を離した。
「ひゃぅっ」
「んあ? ど、どした?」
「んん……。ズボンおっきいからその……持ってないと脱げちゃうんだよぅ。それでさっき、階段で死に掛けたもん」 
 頭をガシガシされながらも必死でズボンを持ち上げている魅音は、心なしかガニ股。
「……ぶふっ。ぎゃははははははっ」
「うううぅ~。わ、笑うなあ!」
「うはははははははっ」
「バカッ。アホたれっ。オタンコナスッ!」
「うはは。うはははっ。よしよし、そんなんじゃあ顔も洗えないだろ。俺が持っててやるから、顔洗えよ」
「ええっ。で、でもそれは……えと……」
「大丈夫大丈夫。悪戯なんかしねえから」
 ジト目で俺を睨む魅音。わはは。全く信用してねえぞこりゃ。
「…………ずらしたら、絶交だからね?」
「分ぁかってる分かってるって! ちっとは信用しろよな。ほれ、後向け」

 こちとら昨日はもっと凄えの見てるっての。
 渋々洗面台に向き直った魅音の後から、その腰を抱くようにしてズボンを支えてやる。ああ、確かにダボダボだこりゃ。
 俺が履いてもゆったり目のズボンだもんな。魅音が履くと、こんなにもぶかぶかになるんだなあ。
 ズボンだけじゃない。見てみりゃシャツも相当でかいな。顔を洗うのに、袖を二巻きも捲り上げてら。
 しかもぶかぶかな上に、前のボタンをきちんと止めていないもんだから、シャツの後襟が大きく開いて、白いうなじが覗いてる。
 薄っすらと産毛の生えた白いうなじが妙に生々しくて、思わずドキリとしてしまう。
 ああもう。昨日からこんな事ばっかり考えてるな、このエロ大王め。
 ――昨日の繰り返し。
 その単語が頭の中でぐるぐる回り、昨夜の様々なシチュエーションが蘇って来てしまう。
 目を奪う艶めかしい太腿、反則擦れ擦れのくびれた腰、我侭な胸。全てを包む、白い肌。
 ギリギリの所ではあったけれど、一線を越えずに我慢しきった俺様に、ノーベル紳士賞を授けたい気持ちで一杯だ。
 しかし、初めて出会った時は「愉快な男女だな」位に思ってたのになぁ。何時の間に、こんなに女らしくなったのやら。
 まだまだ俺様思春期真っ盛りだぞ?
 これ以上フェロモン放出されたら、とても高校三年間を紳士で過ごす自信なんか無いぞ……。
「ひゃっ。ちょ、止めてよ圭ちゃん!」
「んあ。何だよ何もしてねえぞ?」
「嘘吐き。今お尻触ったじゃんっ」
「はぁっ? さ、触ってねえよっ」
「触ったでしょーっ。何かツンツンて……って言ってる先からまた触るなー!」
「触ってねえって! 大体だな、今俺ぁ両手でお前のズボン抑えてんだぞ。触れる訳…………って、オォウ……こりゃ失礼」
 ――朝だしな。やあ元気元気。
「もー。ドスケベ」
「やっは悪い悪い。ちょっと冗談が過ぎたな。すまんすまん」
「そりゃおじさんが魅力的なのは分るけどさー。朝っぱらからそんなえっちぃのはどうかと……って、あれ? そういや圭ちゃん両手であたしの」
「そうだ魅音! 飯っ。朝飯食おうぜっ! なっ?」
「ほ、ほぇっ? な、何、突然」
「よーしよしよし俺が作ってやろうなっ。圭一特性の、スクランブルエッグだっ! どうだ、美味そうだろう?」
「へあぇ? う、うん……あでも良いよ。朝ごはん位あたしが」
「遠慮すんなって! ぃよぉーし、そうと決まればほれほれ、リビングにレッツゴーだっ!」
「わっ、ちょ。けーちゃんあたしまだ顔拭いて無いぃっ。わーー、ズボン引っ張らないでーっ」
 有無を言わさず、強引に話題を摩り替えてリビングに直行。当然移動の間、俺の腰は「く」の字に曲がったままだった。

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「ぃよーし、出来たぞ」
 ふわふわのスクランブルエッグをくるくる掻き混ぜて、ベーコンを乗せたトーストの上に大胆に、ほこっと掛ける。
 圭一特製のスクランブルエッグトーストの出来上がりだ。レンジと睨めっこして、丁度よい頃合で取り出すのがほっこりさの秘訣だ。
 魅音の前に皿を置き、テーブルの右手側に俺も座る。
「待たせたな。ほれ、ドンと食ってくれ」
「おっ。美味しそうじゃん。どれどれ、お師匠様が採点をしてあげようじゃないのさ」
 トーストを口に運び、角を一口かじり真剣な顔で吟味する魅音。
 モグモグと咀嚼する師匠の評価を、真剣な眼差しで待つ弟子ひとり。
「……どうだ?」
 ゴクンと飲み込む姿に合わせて、俺も唾を飲み込む。
 師匠は何度か小さく頷いた後……ニマッと笑い、俺に向かって親指をグッと立てた。
「よっしゃ」思わず満面の笑みでガッツポーズ。
「関心関心。やるじゃん圭ちゃん。やっぱ師匠が良いと上達するもんだねえ。うんうん」
「へへ、言ってろ。その内師弟の立場を逆転してやっからな」
 言いつつ俺もパクリとかぶりつく。うん、中々だ。
 普段より美味く感じるのは気のせいじゃないだろう。
『覚えたての、塩味のちょっと濃いスクランブルエッグを、食べさせてやろうと思っていた』
 昨日密かに立てていた計画の一つを、やり通せた達成感があるから。
 それとも単純に、俺の隣に魅音が居るから。それだけかもしれないけれど。
 魅音が、俺の隣で嬉しそうに笑ってる。
 リスみたいに欲張りに一杯頬ばって、俺の作ったトーストを幸せそうに食べてる。
 ――まあこいつは何時だって飯を食ってる時は幸せそうだけど。
 こいつの笑顔を沢山、集めて行きたい。そう思う。
 多分それが、俺の幸せなんだろう。そう思う。
 魅音が俺の視線に気付いた。一瞬きょとんと動きを止めた後、トーストを咥えたまま口を尖らせて俺の頬を押して反対に向かせた。
 へへ。食べてる姿って、見られてると何となく恥ずかしいもんな。

「ん! 美味しかった。ご馳走さまっ」
「おー。お粗末さまでした」
 飲み干したグラスにオレンジジュースを注いでやると、パックから流れ出すオレンジ色の液体がトットッと心地良い音を立てた。
「圭ちゃん」
「ん?」
「あの、さ…………ちょ、ちょっと聞きたいんだけど」
 ジュースを注いでいるグラスから目を上げると、魅音は頭からうっすらと湯気を立てながら俯いていた。
「何を」
「え、えっとその……き、昨日の夜、さ。あたし、酔っ払ってたよね?」
 来たな。当然と言えば当然の質問だ。だけどここは冷静に答えなくちゃならない。
 下手に狼狽したら、きっと訳の分からないままに「俺が悪い事をした」なんて事にされちまうに違いない。
 脱いだのはこいつだ。俺が脱がせたんじゃない。何も悪い事なんてしちゃいないんだ。
 俺はただ、ちょっと眼福にあやかっただけなんだからな。
 クールになれ前原圭一。落ち着いて受け答えするんだ。
「ああそりゃあもう盛大にな。覚えてないのか」
「あ、あやふやだけど、大体覚えてる……と思う」
「――俺を押し倒したのもか?」
「ふえっ!? ……ふええぇぇん、それ、やっぱり夢じゃないんだあぁ」
 魅音の頭から輪っか型の湯気がポンッと上がり、怒られてしょげている子犬みたいな顔になった。
 頭の上の犬耳がすっかり垂れ下がっちまってるなぁ。
「じゃじゃじゃ、じゃあそのあの、ももも、もしかしてあのそのあのそそそのあの――」
「脱いだぞ」
「むぎっ!」
 永遠に繰り返されかねない「あのその」を一刀両断でブッツリと斬ってやったら、どうやら魅音の息の根まで止めてしまったらしい。
 まん丸に見開いた目からは黒目がなくなり、なんか白くてふわふわした物が口からはみ出してる。
 ……これ引っこ抜いたら、多分まずいんだろうな。

 自分の分の朝飯を平らげて、ご馳走さまの挨拶。
 二人分の食器を重ねて流しに持って行き、とりあえず水に浸しておく。
 後片付けは後にしよう。
 テーブルに戻り、オレンジジュースを一口すすり、ふうと一息。
「さて、と」
 やわらかな朝の日差しに相応しい優雅な動作で俺はゆったりと振りかぶり、魅音の後頭部を引っ叩いて差し上げた。
 抜け掛けていた白いふわふわが魅音の体内にシュポッと戻る。
「圭ちゃんのド助平っ!!」
「硬直長ぇよっ! でもって俺は悪かねぇっ!」
「でも見たんでしょっ? ばかーっ」
「お前が見せたんだっ!」
「うるさいバカーッ。ぶええぇぇん」
「泣くなっ」
 俺の肩をボカボカ叩きながら鼻水をすする魅音。うむ、食器を片付けておいて正解だったな。

 とりあえず戦場をリビングのロングソファーに移し、魅音の機嫌を直すのにたっぷり三十分は掛かった。
 ああ、違うな。裸をみた事で三十分、寝巻きを着せた事で三十分。計一時間だ。
 その間、一体何回「やらしい事はしてないっ」って言っただろうか。嘘は吐いてない。考えただけで、してないからな。
 裸を見られた(しつこいようだが、見せられたんだと訂正したい)事は勿論だが、魅音はそれ以上に、背中の刺青の事を気にしていた。
「見てないよ」
「ホントに……?」
「ああ、見てない。見ない様にして寝巻き着せるのは苦労したんぜ?」
「…………」
 複雑な表情で俯く魅音。間違いなく、色々とネガティブな事を考えているんだろう。
 小さくなってソファの中に沈みこんでしまいそうな魅音の肩を、俺はぐいと掴み抱き寄せる。
「ふぁ……」
「勘違いすんな。別に俺はそんな刺青の一つや二つ、気にしちゃいないよ」
「……じゃあ、何で見なかったのさ。気にしてないなら、見ればいいじゃん」
「お前が嫌がるだろうが。見せても良いって思った時に、お前から見せてくれ。それで良いさ」
「……引かない?」
「見て見ないと分かん無いけど……まあ多分「ふーん」位しか言わないだろうと思うぜ? それよりも俺ぁ、そのでっかい胸の方が気にな――痛てててっ」
「ド助平」 
 頬をつねる魅音の顔が、やっと笑った。
「へへへ。まあ気楽にしてろよ。――それよりも魅音。お前には今、もっと取り組むべき課題が有る事に気付いてんのか?」
「ほぇ? な、何」
「お前は俺との約束をすっぽかしたぞ? その穴埋めをしないとな」
「うっ……ごめん」
「寂しかったなぁ~。お前と楽しく過ごそうと思ってたのになぁ。俺の心には、ぽっかりと穴が空いて」
「嘘ばっか。レナ達と楽しく過ごした癖に」
「あいつらが居たら、お前の代わりになるのか?」
「ふぇ……そ、そんなの……あたしに聞かないでよ」
「あいつらは俺にとって、大切な仲間だ。お前は……違うだろ。代わりは居ねえよ」
「…………むぅ~っ、圭ちゃんとは、口喧嘩しないっ」
「何で?」
「だって勝てる気がしないもん」
 頬を赤らめ、ぷっくりとした下唇を突き出して拗ねる魅音。俺の胸に顔を埋め、額をグリグリと押し付けた。
 その頭をポンポンと優しく撫でてやる。
 猫のように、丸く丸くなっていく魅音。ゴロゴロと、のどの鳴る音が聞こえてきそうだ。
 ああ……良い。
 このまま何もせずに、太陽が沈むまでこうしていたい。
 ――が、そうも行かないんだっけ。
「お前、今日の予定は?」
「ん……二時からちょっと……」
 ――だったよな。前から聞いていた事だ。
「そっか。……まぁしょうがねえな。じゃあまた今度時間が空いた時にさ、エンジェルモートでランチでも奢ってくれよ」
「穴埋め?」
「おぉ。滅茶メチャ喰うからな。覚悟しとけよ」

「……やだ」
「へ? ――ぁ……」
 予想外の否定に驚いて下を向くと、柔らかな感触が唇に触れた。それは一瞬の感覚で、すぐに消えた。
 閉じた瞼をうっすらと開き、俺を見上げるトロンとした魅音の瞳。
 自分の唇が触れた物を確かめるように、魅音が俺の唇を指でなぞる。
「……み、魅音……」
「――喋ったら、勝てないもん」
 唇に触れていた細い指先が、そのまま口の中へと侵入してきた。
 魅音は再び瞼を閉じ、顔を寄せた。さっきの柔らかな感触が、唇に蘇る。
「ん……」
 今度は、すぐに消えたりしなかった。
 喋らせないように……塞いだってか……?
 五感全てが、その柔らかさを感知する為だけに唇へと集中する。
 腹の底から何かとてつもなく熱い塊が込み上げて来る。その塊は物凄い勢いで背骨を駆け上がり、頭の中を弾け回って俺の脳みそを滅茶苦茶に砕いた。
 本能の器に、数多の感情が押し寄せて来る。
 余りにも強く、断片的で、未熟な感情の奔流。思考は真っ白に停止してしまい、体は本能に委ねられた。
 最初に感じたモノは、食欲に似ていた。
 喰らい尽したい――そんな獣じみた衝動に駆られ、俺は重ねた唇を僅かに開き、魅音の下唇を口の中へ含んだ。
 その柔らかさを夢中で食んだ。軽く歯を立てて甘噛みすると、魅音がビクリと体を震わせた。
「――っぁ……はっ……」
 漏らした甘い吐息が鼻腔を濡らす。
 熱い。
 耳の奥がジンジンと音を立てて痺れる。
 何かが浸入してきた。
 俺の上唇を押しのけて、俺の歯を、唇の裏を、這っている。

 舌だ。
 魅音の……それなのか?
 何かを探し求めるかのように、意志を持つ生き物の様に、貪欲に俺を舐めている。
「……っ!」
 今まで感じた事の無い激しい快感に、背を仰け反らせた。
 何だよ、何なんだよっ。
 知らない、こんなのは知らない!
 左腕で、魅音の体を抱き寄せた。右手をうなじから髪の中へ乱暴に梳き入れ、掻き上げた。
「はっ……ぁ」
 力任せに抱きしめられた苦しさに魅音が苦悶の呻きを漏らす。俺は力を緩める所か、迂闊に開いたその口に舌を潜り込ませた。
 そして、やり返した。魅音が俺にした様に、俺も魅音の歯を……歯茎と唇の境界線に舌を這わせる。
 同じだった。魅音も体を仰け反らせて、声も無く悶えた。
 同じ快感を味わっている。そう感じた途端、与えられる快感よりも、与える快感が俺を制圧していった。
 好きだとか、愛してるだとか、そんな高尚な物じゃない。
 もっと獰猛で、原始的な……だけどどこか泣きたくなる様な衝動。
 魅音の左腕が俺の背を抱き、右手が髪をまさぐる。
 只々全てを欲し、一つになりたいと猛る。
 比喩で無く、本当に溶けて混ざり合えるならば、どんなに幸せだろうか。
 俺の全身は今や、溶鉄の如くに熱を帯びていた。抱き寄せ押し潰された二つの乳房も、同じ熱を帯びている。

 背に回された指の爪が、シャツを引き裂かんばかりに立てられて肉に食い込む。
 その痛みが俺を加速させた。貪欲に魅音を求める舌は、更に奥へ、奥へと這っていく。
 閉じかけた歯の隙間へとこじ入り、その内側までに舌を這わせる。
 抱きしめた細い腰が跳ねた。先程の比にならない反応。舌の裏側、口腔の上面……舌の這う場所を変える度に魅音の体は仰け反り、身をよじらせて悶えた。
 それでいてお互いは唇を求め合い、吸い付いたように離れない。
 声に出来ない喘ぎは振動となって俺の中心を痺れさせ、鼻から漏れるくぐもった荒い息が、お互いの劣情を煽る。
 俺の髪を掴む魅音の右手に力が篭もり、更に奥へと誘い込もうとする。
 艶めかしく侵入し合う二つの生き物が、触れ合った。
 それをきっかけに、激しく絡み合う二匹の妖魔。溶け合うように、濡れる身を必死で貪りあう。
 もっと溶けろ。もっと欲しい。もっともっと。もっと――

 欲望の命じるまま、俺は魅音の濡れる舌を吸った。
 その途端魅音の体がガクガクと震え、糸の切れたマリオネットの様に力を失ってしまった。
 バランスを崩した二人の体はもつれ合ったまま、ソファーの上に倒れ込んだ。
 柔らかな魅音の体が、ソファーに沈む。
「っは……はぁ、はぁ」
 酸素を取り込む事すら忘れ、貪り合っていた唇が離れて荒い息を吐き出す。
 二人の唇の間を、光る一筋の糸が結ぶ。
 俺の分泌した物が、魅音の中に入っていく――。
 今更の様に羞恥心が込み上げて来た。慌てて唇を拭い糸を切る。
 その間も、俺は魅音の瞳から目を逸らせないでいた。魅音も熱にうなされた様な目をうっすらと開き、恥らうように……だけどしっかりと俺の瞳を見つめ返していた。
「な……何で……?」
 掠れ切った声を喉から絞り出した。
 何が「何で」で、何を疑問に思って呟いたのか、自分でも良く分らない。
 要約し過ぎて自分でも意味が分らなくなったのかも知れないし、本当に意味なんて無かったかも知れない。
「あな……うめ…………する……んでしょ?」
 荒い息の合間合間に、魅音が呟いた。
 すっ、と伸ばされた白い腕が、俺の頬を撫ぜた。その柔らかさが、僅かに芽生えた羞恥を再び征服欲にすり替えてしまう。
「ああ。そう……だよ」
 同じ様に手を伸ばし、撫ぜた頬は驚く程に熱を帯びていた。
 そのまま肌に沿い、手を滑らせ首筋にそっと触れると、色のある声で魅音が吐息を漏らした。
「……ぁ…っん」
「あ……穴埋め……だからな」
「…………ん……」
 頬に添えられた手が滑るように首に巻きついて、俺を引き寄せる。
 再び重なる唇――その直前に、無粋な電子音を聞いた気がした。
 気にも留めなかった。貪欲に絡め合い、貪りあった。
 行為に溺れる最中にも、玄関から聞こえる電子音が、耳にまでは届いていた。
 三度目の音が聞こえた時、息が続かなくなって唇を解いた。
 荒い息と共に、最後に残った理性が吐き出されていく。
「……出ない……の?」
 息も絶え絶えに、魅音が聞く。
「出ない」
「でも……誰か……来て」
「関係ない」
「ダメ、だよ……」
 そんな問答をしている間も、玄関の呼び鈴は激しく家人の応答を求めていた。
「じゃあ、手、離せよ。動けないだろ」
「………………ゃ」
「じゃあ、出ない」
「……ぅん。……出ちゃ、ャだ」
「最初から、そう言え。馬鹿」
「ん…………ごめん」
 腰に回されていた魅音の腕が、シャツの中へと入ってきた。
 細い指先がオズオズと、ほんの少しずつ俺のシャツの中へと侵入し、背をなぞる。
『女にリードされたままじゃ、男が廃る』
 そんな馬鹿な見栄を頭に描く余裕が残っていた事には、我ながら少し驚いた。
 俺は、音が聞こえてしまうのでは無いかと思うほどに、ゴクリと唾を飲み込み……意を決して右手を、

 魅音の寝巻きのボタンへと伸ばした。
 震える右手がボタンへと触れた。その時――

「圭ちゃんお姉っ。起きてます?! 起きて下さいっ!」

 ピンポン乱打の合間に聞えた、聞き覚えのある声。
「しっ……」
「「詩音っ?!」」

 俺も魅音も、弾かれた様にソファーから飛び起きた。
 余韻もへったくれも無い。コンマ数秒で、俺達は桃源郷から現実へと引き戻された。
 こうなると恥ずかしくって、お互いの顔すらまともに見られない。
「なっ、ななな何でこんな時間に詩音がうちに来るんだよっ!」
「しし、知らないよっ。知らないけど、早く出て圭ちゃんっ! 早く出ないと、きっとあの子なら庭まで回って来るっ」
 寝間着の間を合わせながら、魅音は慌てて二階に駆け上がって行った。
 確かに魅音の言う通りだ。他の誰かならまだしも、詩音には口裏合わせの為に事情を伝えてある。
 どういう理由かは分らないが、その詩音が来ているんだ。まさか居留守を使う訳にもいかないだろう。
 慌てて玄関に走り、急いでドアを開ける。出来ているかどうかは別として、できる限りのポーカーフェイスは当然忘れない。

「圭ちゃん。お姉はっ!?」
「おう、どうしたんだよ詩音、こんな朝早く……って、葛西さんまで? な、何かあったんですか」
「おはようございます。前原さん」
 何だか慌てふためいている詩音とは対照的に、葛西さんは落ち着いた様子だった。まあこの人は何時でも落ち着いているんだけれど。
「あ、どうもおはようござ――いだっ」
 会釈をしたその後頭部を、詩音に引っ叩かれた。何するんだと詩音を睨むと、凄い剣幕でそれ所じゃありません、と一喝されてしまった。
「挨拶なんて良いですからっ! 圭ちゃん。お姉、居るんですよね?」
「あ、ああ。居るぞ」
「とっとと叩き起こしちゃって下さいっ。今は一時でも惜しいです」
「ちょっと待てよっ。兎に角説明してくれ。さっぱり分らん」
「――ああもうっ! お婆ちゃんが無理矢理退院しちゃったんですよ! 今日帰ってくるんですっ」
「な、何ぃっ。お魎さんが?」
 早口で捲くし立てる詩音が言うにはこうだ。
 後二週間は入院して養生しなければならない筈だったお魎さんだったが、今朝突然「はっきりした病気でも無いんに、いつまでもゴロゴロしとれんね」と言い出したんだそうだ。
 その後は電光石火、引き止める医師や看護婦を一括し、朝一で茜さんを引き連れて病院を脱走してしまったと言うのだ。
「マジかよ。……っじ、じゃあもしかして、もうこっちに向かって?」
 うなずく詩音。
「母さんは兎も角、圭ちゃんの所に泊まってるなんて事がお婆ちゃんに知れたらどうなるか……分りますね?」
 ゴクリと唾を飲み込む。二回目だが、今度は全く色気も無かった。
『雛見沢で一番本気にさせたく無い女性』ナンバーワンを敵に回すなんて、冗談じゃない。
 しかも連れてくるのが『鹿骨で一番敵に回したくない女性ナンバーワン』だと?
「わわ、分かった。すぐ呼んで来るっ!」
「時間が有りません。急いでっ」

 尻に火が付くってのはこの事か。二段飛ばかしで階段を駆け上がり、自室に飛び込んだ。扉は開けたままになっていた。
「魅音っ」
「聞えてたっ。すぐ降りられるよっ」
 魅音はすっかり着替え終えて、ショートパーカーのチャックをグイと上げている所だった。
 ちょっと残念……いやいや、そんな事言ってる場合じゃないな。
「よし、急げ魅音」
「あいよっ」
 俺の突き出した右拳を魅音が同じく右拳で上から叩き、続いて下から突き上げた後、握手を交わす。
 気合を入れる時のいつもの挨拶だ。
 すっかりいつも通り。
 それが、ちょっとだけ寂しかった。……寂しい? いや、残念なのかも。それとも……何だろう、ハッキリとは分らない。
 ただ『俺』の心は、いつも通りには戻れていなかったって事だ。
 だから、普段通りを装う事に、耐えられなかったのかも知れない。
 そうだから、握手を交わしたその手を、俺は離す事ができなかったらしい。
 握り締めたまま離していない事に気付いたのは、声を掛けられてからだった。
「……圭ちゃん?」
「え……? あっ。す、すまん」
 はっと我に返り、慌てて手を離し、引きつった笑いを浮かべて誤魔化した。
 そんな俺を見つめる魅音は、いつも通りの表情だった。
「……なに?」
 ――だけどその声には、甘い物が含まれていた。
 少なくとも俺には、そう聞えた。だから、少し勇気が出た。
「――こ、今度は、その……い、いつ……」
『会える?』の言葉が、何故かどうしても出せなかった。
 バカ正直だな。凄く微妙な意味合いになっちまったじゃないか。
「…………すけべ」
 ほれ見ろ誤解されちまった。「そう意味じゃねえ」って、早く言えよ。
 赤い顔でモゴモゴしていると、魅音は薄い笑いを浮かべながら、俺の胸にコツンと頭をつけて、言った。
「あたしも………………かな」
「え?」
「聞き返さないでよ……バカ」
 ……それって、お前も、望んでるって事か? ……今朝の、続き……を――
 緊急の事態が迫っている事も忘れ、魅音の背に腕を回したい衝動に駆られた。
 それを察したのか、魅音は両手で俺の肩をトンと突き、体を離した。その顔はまた普段通りの笑顔に戻っていた。
「また連絡するねっ」
「あ、ああ……」
 狐につままれた様な、何とも曖昧な表情で俺は返事をしていたに違いない。それを見て魅音が笑う。

「何してるんですっ。お姉ぇ、早くっ!」
 階下から、怒声に近い詩音の叫びが響く。

「やべっ、ほら行けっ」
「うひゃっ、じゃまたね圭ちゃん!」
「おぅっ」
 ポニーテールをなびかせ、ドタバタと駆け下りていく魅音。
 階下から響いてくる賑やかな騒ぎ声を心地良く聞きながら、玄関側の壁の窓を開けた。
 肌寒い午前の風が、火照った頬を撫でる。玄関前に止まった黒ずくめの高級車が、砂埃を上げて急発進していくのを、二階の窓から乗り出して見送った。
 後部座席の窓を開け、ヒラヒラと振られる手が遠ざかって行く。
「ああ、クソ。……明日から、どんな顔して会えば良いんだよ。全く……」
 とりあえず、そうぼやいて見た。
 色々と不安や恐れも、確かにあった。
 あったけれど、俺はニヤニヤしっ放しだった。

 ――今日も夜……来ないかな。あいつ。


―― おわり ――


やっちゃった感満載です……。
っでも! 後悔はしていないっ。
ひぐらし漫画も描いておられる、僕の大好きな某漫画家さんの様に、キス魔って呼ばれたら幸せだなあ(変態
それじゃ皆様、また!
コメント・苦情待ってます(笑
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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

素晴らしい純愛っぷりと微エロでした。魅音可愛すぎるw
甘々苦手と言いつつ、上手いじゃないですかw

キスの描写がめっちゃ濃厚で興奮した!
このキス魔が!!w

それにしてもホントいいとこで邪魔が入ったw
コンボイさんは寸止めの達人だヌェ(・3・)

選択肢Cでは詩音が来ないバージョンをおねがいしまs(ぐsy
【2008/03/15 12:00】 URL | だいぶつ #gIYQI5Sw [ 編集]


書く方はやっちゃった感かもですが、読む側は満足度のみの充実感でいっぱいです(笑)
一連のどたばたに、ほっこり幸せ~な気持ちになりました。
周りに翻弄される圭魅も大好きなので、詩音(というかお魎さん)GJです(笑)
あ、あと。cvwithさんの圭ちゃんって、男の子って感じでかっこ可愛いですね*
【2008/03/15 20:52】 URL | しゆ #SFo5/nok [ 編集]


めっちゃよかったです♪
続きがほしいですよ!!マジデ!!
すっごく満足です。
サイコーです♪
【2008/03/15 22:23】 URL | ふぅ #uvrEXygI [ 編集]

時間を見計らって、、、
じっくり読んでしまいました。オジャマします。
魅音の女の子っぷりがすっごくかわいくて、
同じ女性ながら、ドキドキでした///きゃー///
2人のドキドキとか気持ちとか、すっごく羨ましいくらい。
描写がめっちゃリアルでなんかもう指の間から
覗きたいような?wそんな気持ちに・・・・きゃー///ww
【2008/03/16 21:26】 URL | krt #mQop/nM. [ 編集]


ご無沙汰してます。
美エロ、GJでした。
こういうのも書いてみたいなぁとは思いますが、何せ魅ぃの日にも間に合わないような忙しさなもので。

> 最初に感じたモノは、食欲に似ていた。

私も初めて大人のキスをしたときには「これは食欲だ」と思いました。
【2008/03/17 02:48】 URL | xueyuehua #- [ 編集]


皆様コメントありがとう~。

>だいぶつさん
甘甘じゃないよ~。エロエロなんだよ~w
寸止め位が一番良いんだよきっと!
じゃあ選択肢のCはだいぶつさんの個人メールに……(嘘

>しゆさん
満足して貰えて良かったです!
かっこ可愛いと褒められて、圭ちゃんも私も大満足ですw

>ふぅさん
めちゃ褒めて下さってありがとう!
思わず調子に乗ってしまいそうですが、流石にこのエピソードの続きを書くと全年齢対象じゃ無くなっちゃうのでww
一応私のSSは「一話読みきりの連続物」という形を基本にしていますので、
これ以降のお話とかは、ドンドン書いていくつもりですー。

>krtさん
時間見計らないでよーっww
女性から見て、魅音の心情や行動が違和感の無いものであったなら、凄く自信になるなぁ。
十代らしいエロになっていたら、狙い通りですw

>xueyuehuaさん
どうもです!
お忙しい中、遊びに来て下さって感謝ですよー。
食欲も、欲の一つです物ね。どこか似ていると思います。

コメントを下さった方達以外の、読んで下さっている皆さんにもありがとうです!
ではではまた~。
【2008/03/17 15:32】 URL | cvwith #- [ 編集]


いいじゃないですか!
ピンポンに出ないあたりとか秀逸ですよっ!wktkしたっ!

しかし、圭ちゃん紳士ですねw それでいてちゃんとエッチでよいです。
綿流しと目明しで色々勉強した、皆殺し以降の圭ちゃんならこうカッコ良くなるのですね、メモメモφ 
【2008/03/18 22:19】 URL | Kas姉 #- [ 編集]


>Kas姉さん
コメントありがとうですー。
私の書く圭一は、エロ紳士ですのでw
これを書き終えた後に、Kas姉さんの十八禁パートを読ませて頂いたんですよ。
いやぁ、色々勉強になりました!ww
ありがとう御座います!w
【2008/03/20 03:11】 URL | cvwith #- [ 編集]

やっぱり据え膳(^^
どうも、KK23です。

据え膳な夜を過ごした後の、お約束な朝の展開。(^^
パジャマを着た魅音の仕草が何ともいえませんね。
ニヤニヤが止まりませんでした。

この後日談が気になります。

情報伝達がインターネットよりも早い雛見沢では、
この『既成事実』はどのように受け止められるのでしょうかね?(^^

特にレナの反応が楽しみです。
【2008/03/20 11:40】 URL | KK23 #t0fRMh2Y [ 編集]


> KK23さん
いらっしゃいませー。
ニヤニヤして頂き、ありがとう御座いますw
このSSの直接の後日談は、今の所予定して無いのですよ。ゴメンなさい。
でも確かにレナに焦点を当てたお話は面白そうですね。
……文才がついて行きそうに無いですw
コメントありがとうですー。
【2008/03/22 02:12】 URL | cvwith #- [ 編集]


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Author:cvwith
岡山に生息。
カレーは混ぜてから食べる派です。
「ひぐらしのなく頃に」の二次創作を中心に、ショートストーリー(SS)を書いています。
「うみねこ」もちらほらとやってます。
いずれオリジナルも書いてみたいと野望を持っております。

メアド : kdksf1@mail.goo.ne.jp
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感想・ご意見・イラストなど随時激烈に大歓迎中です!



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