妄想の地図帳
 「ひぐらしのなく頃に」が好きなおっさんが、二次創作やオリジナル物語を書いたりするとかしないとか。
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園崎家の年初め
 これは第二回目の投稿作品です。
平成19年のお正月に投稿したものがベースになってます。
が、改めて読み返すと、驚くほどの台詞の嵐(笑
これはイカン、と大幅加筆いたしました。
お時間ありましたら、ご賞味下さいませ。
 ―― 昭和五十九年 一月三日

「ばっちゃ大丈夫? 座れる?」
「世話無いわ。今日は大分調子がええ。正月じゃちゅうに、寝てばっか居られんわいね」
「もうすぐお母さん達来ると思うから、ちょっと表を見てきます」
「ああ。頼むんね」
 コタツにばっちゃを座らせて、私は襖を開けて玄関へと向かった。

 詩音から「これから輿宮を出ますから」と連絡があったのが丁度三十分ほど前。
 そろそろ着いても良い頃だろう。
 藍色のピーコートを羽織り、底が厚めのスニーカーを履いていると外で車の停まる音が聞こえた。
 お母さん達着いたかな?
 玄関の引き戸を開けると、正門から詩音の大きな声が聞こえてきた。
「お姉ぇ~~。着きましたよ~。開けて下さ~い」
「はいはい今行くよ~っ」
 リズミカルに白い息を吐きながら、雪かきをしてある石畳の上をヒョイヒョイと正門に向かって行く。
 根っからの雛見沢っ子である私はこの程度の雪では転んだりしないのさ。

 正門をドンドンと叩き「早く開けろ~」と騒がしい詩音に悪態を付きながら閂(かんぬき)を外して、観音扉をうんしょっと開ける。
「も~遅いですお姉っ。凍え死ぬかと思いました」
 開口一発新年の挨拶がそれですか。何ともあんたらしいね詩音。
 これは一つやり返してやらないと……と一瞬思ったけれど、詩音の姿を見た瞬間、そんな考えはどこかに吹き飛んじゃった。
「おおぉ? 何あんた、その晴着可愛いじゃん! 似合ってる似合ってるっ」
「あったり前です。お姉と違って、私は何でも着こなしますから」
 
 ――やっぱり悪口の一つでも言ってやるんだった。
 でも本当にかわいい振袖。
 薄紫を基調にした正絹の中振袖は、袖に向かって緩やかに赤色へとグラデーションが掛かってて、袖や裾を中心にあしらってあるスミレや桜の花柄が可愛いじゃん。
 金色の花柄帯に緑の帯揚げが、全体のシルエットをキュッと引き締めて良い感じだし、肩に掛けたショールはうっすらとブルー掛かった白色で、翡翠色の髪が惹き立ってる。
 お母さんと同じように編み上げた髪に刺した真っ赤なハイビスカスかな? の大きな髪飾りが、これまた良く似合ってる。 
 わが妹ながら、バッチリ合格点だね。

「そう言うお姉は味気ないですねぇ。普段着じゃないですか」
「おじさんはそう言うの苦手だからね~。この方が動きやすくて良いよ」
「相変わらずですねぇ。そんなだから圭ちゃんとの仲が一歩も前進しないんですよ」
「は、はぁ? 何でイキナリそこで圭ちゃんの名前が出て来る訳さっ」
「きゃーっ。お姉が怒ったー」
 ケタケタ笑いながら詩音はあたしにショールを捲きつけてクルクルと回りだす。

「全く、あんた達と来たら正月から煩いねえ」
「あ、明けましておめでとう! 父さん母さん」
「おめでとう魅音。今年も良い年になりそうだねぇ」
「おーうおめでとう魅音。暫く会えんかったが元気そうじゃのう。がっはっはっは!」
 黄色い声で騒ぐ私達に、呆れ顔で母さんはヒラヒラと手を振った。
 父さんはその横でゴッツイ顔を豪快に破顔させて大声で笑う。
 うーん……。
 紋付袴の父さんと和服の母さんが揃うと……やっぱり迫力あるなあ。
 どっからどう見ても職業通りだもん。

「そう言えばお父さんの言うとおりですね。家族が揃うのって久しぶりです」
「だね。やっぱり家族揃うのって嬉しいよ。……あれ? そういえば今日は葛西さんは来てないの?」
「あたしゃ気にしないで良いから付いといでって言ったんだけどねぇ。ほら、葛西は家族団欒とかにやたら気を使う所があるだろう?」
「葛西さんなら家族みたいなモンなのにねぇ……まあ葛西さんらしいか。 ん、まーまーこんな所で立ち話してても冷えちゃうからさ、中に入ろうよ」
「そうするとしようかね。――ところで魅音。最近母さんの具合はどうなんだい?」
「すこぶる良いよー。100歳までは安泰だね~」
「あらら。それじゃお父さんはあと30年は頭が上がりませんねぇ。うふふふ」
「が、がはははっ。何を言うんじゃ詩音。わしゃお義母さんが元気なら言う事無しじゃぞ! がは、がはっはっは!」
「「無理しちゃって~~」」 
 私達二人の声がハモった。

--------------------------------------------

 私が家族を連れて本家の廊下を歩く。
 ほんの数年前なら、こんなシチュエーションは大抵何か大きな騒動の始まりで、皆剣呑な表情をしていたものだ。
 だけど今年は皆で揃って、お正月のお祝いなのだ。
 普通の家庭では当たり前の事が、私にはとても嬉しかった。

「ばっちゃ。お母さんたち着きましたよ」
「お義母さん、お久しぶりです。明けましておめでとうございます」
「鬼ば…おばあちゃん、明けましておめでとうございます」
「おめでとう母さん。元気だったかい?」
「明けましておめでとう。そんな突っ立っとらんと、こっちでくつろがんね」

 最近のばっちゃは、何だか少しだけ柔らかくなった感じがする。
 思いつめた感じが無いと言うか、一仕事終えて安心しているって言うか。
 雛見沢の母としての威厳を湛えたまま、優しさが滲み出てるんだよね。
 そう言ったら照れ屋のばっちゃに怒られたから、あんまり言わないけど。

 そんな風に変わったのは……やっぱりあの日からだと思う。
 圭ちゃんがばっちゃに真っ向勝負を挑んだ、あの日。
 あの時私は心底生きた心地がしなかった。
 圭ちゃんがばっちゃに……いや、園崎家に*されてしまうのではないかと、怯えた。
 その時は圭ちゃんと一緒に運命を共にしよう。そう決めていた。
 だってもし、圭ちゃんがよりにもよって私の家に*されたりしたら……私は爪が全て無くなっても、自分を許せないに違いない。
 ――それにしてもあの時の圭ちゃん、かっこよかったなぁ~。にへへ。

「ばっちゃ、じゃああたしお雑煮持ってきますね」
「あ、じゃあ私も手伝います」
「じゃあ行こ。詩音」
 詩音と二人で台所に用意しておいたお雑煮を取りに行った。
 台所で準備をしている時に、詩音がちょっと不思議そうな顔で私に話しかけてきた。
「お姉、おばあちゃん、最近ずっとあんな感じなんですか?」
「? さっきも言ったけど体の調子はいいよ…………って、ああそういう事じゃないか。うん、あんな感じだね」
「憑き物が落ちたと言うか何というか……。良い事なんだけど……何かあったんです?」
「ほら夏前にさ、圭ちゃんとばっちゃが大立ち回りやったじゃない? あの時から段々とって感じかな」
「あー。……あの時の圭ちゃんの啖呵は凄かったですね。おばあちゃんも最初は怒ってるのかと思ったけど、圭ちゃんの事凄く気に入ってましたものね」
「うん。お母さんに聞いたんだけど、『後は若いもんがやってくれる』ってばっちゃんが言ってたんだって。――ばっちゃも今まで苦労してきたからさ。これからは私が頑張らないとね」
 あたしがそう言うと、お雑煮に入れるカマボコを切っていた詩音の包丁の音が、ピタリと止まった。

「……お姉……無理して」
「はいはいはいそこっ。勝手に湿りモードに入らない! 今日は家族団欒でお正月だよう? なんなら家族で部活でもするかい? くっくっく」
 詩音の言いたい事は私にも分かってる。
 ばっちゃに限って、張りが無くなってポックリ……なんて事は無いだろうし、なって欲しく無い。
 でも、私が頭首を継ぐ時期が早くなる可能性はある。
 そうなれば高校にも行けるかどうか分からない。
 皆とも、今までの様には会えなくなるかもしれないな……。
 っと、いけないいけない。詩音に言っといて私が湿りモードでどうするのっ。
「ほらほら行くよ詩音。お盆持って!」
「……あー、ゴホン。 お姉に諭されるとは不覚です。……よし! お父さん今日何も食べてませんからね。早く行ってあげましょう」

--------------------------------------------

「はーいお待たせしましたー。お雑煮ですよー」
「おー、待ってたよ魅音っ。あたしゃもうお腹ペコペコだよ」
 大人気なくお盆からお雑煮の椀を引っ手繰って、さっさと食べ始めるお母さん。
 この姿を園崎組の若い人達が見たら,どう思うんだろうなあ。
「うわ、お母さんみかん食べ過ぎ。もう4つも食べたの?」
「おっほ。こりゃ美味そうじゃのう! 作ったのはお義母さん? それとも魅音か?」
「ばっちゃが作ってくれたんだよ。でもお餅を搗いたのは、私と部活の皆なんだよ。面白かったなあ」
「部活? 部活ってぇと、例の前原の坊主か! ありゃあ活きのいい若ぇ衆だったなあ」
「正月早々ぞろぞろ集まって、まあ~騒がしくしょってんから。離れまで大騒ぎが聞こえよったんね」
「えっへっへ。ばっちゃも腰が良かったら参加して欲しかったんだけどねぇ~」
「すったらん馬鹿いっとらんと魅音もはよ食いね。餅がのびてまうわ」
 ブスッとしているように見えるけど、こういう時のばっちゃは喜んでるんだって事、私は知ってるよ。
 口数がいつもより多いのが、何よりの証拠だ。

 いやぁ、やっぱり家族で食べるお雑煮は格別に美味しいね! 
 お母さんは最近の輿宮の様子や、年末にあった楽しかった事なんかを色々と話してくれた。
 なんの! 楽しい話なら我が部活メンバーのエピソードに敵うはずが無し!
 負けじとあたしも、華麗でエキサイティングな学校での武勇伝を惜しみなく披露してあげた。
 お母さんもお父さんも大笑いしてた。
 詩音が参加した時の話になると、お母さんが「次はあたしも参加させてもらうとするかね!」なんて言い出す始末。
 うわぁ……恐ろ楽しそうなシーンを想像してしまった。
 久しぶりの一家団欒で、ばっちゃとお母さんが一緒に喜んでくれている事が嬉しかった。
 詩音がばっちゃの事を「鬼婆」じゃなくて、「おばあちゃん」って呼んでくれている事が嬉しかった。

 一番嬉しかったのは、ばっちゃが……沙都子の話に興味を示してくれる事だった。

  梨花ちゃまとは仲良くしとるんね?  

  すったらん、そりゃいたずらにしちゃ度が過ぎとるわ。  

  好き嫌いは良ぅないんね。ちゃんと食べんと、大きゅうはなれんね。

 沙都子の行動一つ一つに相槌を打ってくれた。
 梨花ちゃまの話を聞く時と同じ瞳の色で、沙都子の話を聞いてくれた。
 それでね、こうも言ったんだ。
「魅音……北条んとこの娘……しっかり頼むんね」

 ばっちゃがぽつりとそう言った時ね……嬉しくって。胸がキュウッて、縮んだ。
「ばっちゃ……沙都子だよ。北条沙都子。ばっちゃは雛見沢の母なんだから、名前で呼んであげて」
「――ふん。お前は仲間の事になるといっちょ前になりよるん。分かっとるわ。……沙都子の事、頼むんね」
「……うん。うん任せて。……ありがとう、ばっちゃ」
 あたしが笑うと、ばっちゃは鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
 素直じゃないよね。

「そうは行きませんよお姉っ。沙都子の事は私が守るんですから! おばあちゃん、沙都子のカボチャ嫌いは私が直して見せますからねー」
 お餅を急いで飲み込んで、慌ててそう言う詩音が可笑しくて嬉しくて、思わずあたしは噴出した。
「やれやれ、沙都子もとんだ災難だねぇ。詩音はやるときゃ徹底的だもんなあ。逆にトラウマになったりしてね~。くっくっく!」
「おおなんだ。最近詩音が家によくカボチャ料理を持って来るようになったのは、そういう事じゃったんか?」
「そういう事です。お父さんで味見をしてたんですけどね……何でもかんでも美味い美味いしか言わないからあんまり意味無かったです」
「あっはっはっは! 子バカだからねぇこの人は。――さて、と。母さん、もうそろそろ話しておこうじゃないかね」
「そうやんね。……魅音。お前に話があるんよ。よぅ聞いとんね」
 突然、ばっちゃとお母さんが真面目な顔をして、あたしの方に向かって座を直す。
 なんだかやーな予感がする。大体こんな楽しい雰囲気の時にかしこまるなんて、ろくな話な訳が無いじゃない。

--------------------------------------------

「な、何さばっちゃもお母さんも。いきなりかしこまっちゃって……」
 お腹のお餅が鉛に変わったような重さを感じるよう。
「魅音。お前は園崎家次期党首やな」
「は、はい」
「今まで色々と教え込んで来とるし、よぉ飲み込んでこれちょる。それは皆も感じとるやろ」
 
 ピンと来た。
 ……そうか。年を境に頭首の座を正式に譲り渡そう。
 そういう事か。
 今日の一家団欒は、お母さんの娘であり、ばっちゃの孫としての最後の宴。
 そういう事だったのか。
 
 いいよ。いつでも跡を継ぐ覚悟はしてきたつもり。今まで苦労してきたばっちゃの荷を、少しでも軽くしてあげよう。
 高校には行ってみたかったけど、諦めよう。 
 ――ああ。こんな時に圭ちゃんの顔を思い浮かべちゃった。私も未練だなぁ……。

 あたしはコタツから出て正坐に座りなおし、上座のばっちゃに深々と頭を下げた。
「まだまだ頭首には及びません。が、いつでも跡を継がせていただく覚悟はできているつもりです」
 詩音が雑煮を置き、俯くのが横目でチラリと見えた。あんたが気にする事じゃないよ。

「…肩の力抜きな、魅音。違うんだよ。そうじゃないんさね」
「魅音にゃあ悪いと思うちょるが、次期頭首は茜に継いでもらう事にしたんね」

「「………………ふぇっ!?」」 

 あたしと詩音は同時に奇声をあげた。
 あまりにも意外な言葉に、驚きの単語を発するのにすら三秒位間が空いてしまった。
「え、えと、ばっちゃ。あたし、意味が良く分からないんだけど……?」
「私もです。詳しく説明してください。お母さん」
「ああ、あたしから説明するよ。――去年の暮にね、母さんと父さんとあたしの3人で話し合ったのさ。もうこれ以上、大人の都合で子供達に迷惑を掛けるのは止めよう……ってね」
「そんな事言っても……。だ、だってお母さん勘当されちゃってるんだし!」
「あんた今のこの状況をどう見てるんだい。どこの世界に勘当した子供と仲良く正月に餅食ってる家があるのさね?」
「そ、そりゃ……ん。そうだけど……ふえぇ? あたし訳が分からないよぉ」
「……もうええんよ。何で勘当したんか、そんなんも大昔過ぎて忘れてしもうたんね」
 目を白黒させているあたしと詩音に、お母さんが優しく微笑んだ。
「ごめんよ。今まで本当にお前達には悪い事をしたと思ってる。詩音の心に傷をつけて、魅音には背中にも傷を付けちまった。親として失格だよ。今更罪滅ぼしって訳でも無いけどね……次期党首の権利をさ、あたしに譲っちゃくれないかね? 魅音」
「……あ、あは、あはは。な、なんだかあんまり突然すぎてどうして良いのか分からないよお母さん」
 あたしは頭をポリポリ掻きながら笑った。笑ってたと思うんだけど、ちょっと自信が無い。
 だってあんまりにも突然な話なんだもん。どんな表情作れば良いのか、分んなかった。 
「もう、いいんだよ。魅音」
「う、うん。……あ、でもそんな気を使わなくても大丈夫だよ! あたし随分慣れて来てたんだからっ。そりゃばっちゃと比べられるからさ、プレッシャーはあったよ? でも上手くできてたと思うんだけどなー。残念残念。降格かぁ。あっはっは」
「魅音……」
「うん。大変だなって思った事はあったけど、辛いと思った事なんて無いんだよ? 誇りを持ってやってた。そんなに心配しなくても大丈夫なのになぁ」
「魅音。……泣きながら言ったって説得力は無いよ」
「うぇ? あたし泣いてなんか無いよ? ……あれ?」
 あたし泣いてなんか無いのに……。変な事を言うお母さん。
 そう思いながら目の下を触ってみたら、あれ? 濡れてる。

 あれれ? 涙??

 おかしいな何で涙なんか流れてるんだろ。
 本当にあたしは泣くつもりなんて無いし泣くような辛い事も無い筈なのに。
 指で涙を拭うけれどポロポロと涙が止まらないおかしいな。
 突然気が抜けちゃったから安心して涙腺緩んだのかな?
 何やってるの魅音あんたは部長で元次期頭首だよ?
 「辛かったんだな」なんて思われたらばっちゃが悲しい思いをするじゃない!
 そんな風に誤解されるのが嫌だったから涙を拭きながらお母さんとばっちゃに笑って見せた。

 ポロポロ、ぽろぽろ止まらない。
 ――なんで?

 今まで頭首代理としての仕事を思い返してみてるけど……ほら、辛い事なんて無かったじゃないか。
 そりゃあちょっと大変な事は有ったけど……ただ大変だっただけ。それだけの事なのに。
 あたしの様子があんまりおかしいからだろうな。詩音がこたつの向かい側からあたしの隣に来ちゃったじゃない。
 何だか妙に優しい顔で隣に座る詩音の肩を小突き「何でも無いよー」って言った。

 なのにさ、やっぱり何故だかポロポロ止まらないんだ。

「あはは、違うんだよみんな。ホント辛い事なんか無かったんだから! むしろ誇りに……」
「もういんですよ、お姉。もう、いいんです」
 そう言って、詩音があたしの肩ををそっと抱きしめた。

 その暖かさに触れた時、昔の記憶がね、驚くほど一瞬に、それでいて鮮明に蘇ったんだ。
 暗い、暗い闇の中で泣き叫ぶ女の子。
 自分が泣いている理由が、やっと……分かった。

「しお…………ふぐっ……う、ううぅっ! 詩音ん…ごめ、んねぇ…」
 あったんだ。……一つだけ、辛い事。
「ごめ……ごえんねぇぇ……ひっう。ごめんねえぇぇ! うああああぁぁん!!」
「お姉。大丈夫、大丈夫ですから」
「しぉんがつぁいの……たすけて,あげなかっ……。ひっく。詩音……ぁふ。泣いてて……助けてって……。うううぅぅ。爪が……ぅ……剥がれて、泣いて、て。たす……あたひ、が……うくっ……詩音、泣かして……ぁうああああああああああああああ!!」
「馬鹿ですね。気にし過ぎです。あれはお姉じゃなかったんですから。ほら、もう『頭首』は終わり。ね、お姉」
「ふうぅ。ふぐぅうっ。だめだよぅ……。あたし、きらあれたよぅ……。詩音に、嫌われちゃったようぅぅ、ううあああああああん。ぅああああああああっ」
「……馬鹿ですね。ホントに……ん……。そんなの、泣きながら、本人に言う事、じゃない、です」
 あたしは詩音の胸に顔を埋めてわんわんと泣き続けた。
 詩音は包み込むようにあたしの頭を抱きしめて、頬を寄せている。
 あったかくて、優しかった。
 あたしはその温もりを傷つけた。
 なのに今、あたしを優しく包んでくれている。
 涙がね、止まらなかった。いつまでもいつまでも……。

--------------------------------------------

 ひとしきり泣いてやっと落ち着いたあたしに、お母さんがみかんを剥いてくれた。
 まだ横隔膜が落ち着いていないから、ヒックヒックとしゃくって止まらない。
 鼻水をすすりながらミカンを食べている自分が恥ずかしい…。
 ううぅ、失態だぁ。詩音に新しい弱みを握られちゃったなぁ。
 お父さんと何かを話してる詩音を、俯き加減にチラッと覗き見てみた。
 ちょっと目が赤い。
 ……詩音も泣いてたのかな。……また泣かしちゃったよ。
「お姉」
「うひゃっほう! は、はひっ?!」
「な、何ですか変な声出して」
「う、い、いや急に声掛けるもんだからびっくりして。何?」
 目を白黒させて驚いていた詩音は、コホンと一つ咳払いをして切り出した。
「いいですか? 前から何度も言ってますけど、頭首関係の事でお互い負い目を感じるのは無しですからね!」
「う……はい。……で、でもね詩音」
「い い で す ね ?」
「……は、はい」
 小さく縮こまって正坐するあたし。
 頭首とか姉とか妹とかそんなのは抜きにして、やっぱりあたしは詩音には敵わないなぁって実感。

「全くもう……。ほら、お姉手を出して。そっちじゃなくて、こっちの手。お母さんも」
「なんだい詩音。何しようってんだい?」
 詩音はあたしとお母さんの手を握り、コタツの上に乗せた。
 何の意味が有るのか分らなくてお母さんの顔を見つめると、お母さんの頭の上にもクエスチョンマークが乗っかっていた。
 二人して詩音の顔を見つめる。詩音は自分の掌をあたしの掌の横に沿え、「私の顔じゃなくて、こっち」と指差した。
「ほら見てください。私の爪も、お姉の爪も同じです。お母さんも一緒。皆歪んでるでしょ。皆同じ様な罪を背負っているんです。だから、誰かが負い目を感じる必要なんか無いんです」
 お母さんが「ホッ!」と感嘆の息を漏らした。
「……なるほどね。我が娘ながら気の利いた事言うようになったじゃないか」
「伊達に複雑な家庭環境で育っていませんから。強くもなります」
「なんかあたしだけ弱虫みたいなんだけど……」
「ふふふ。魅音は一番優しいのさ。あ、一番はあたしの母さんかね。母さんも同じ爪を持っているんだよ」
「え? そうなんですか」
 びっくりした詩音がばっちゃの方に振り返る。
 ばっちゃはまるで何も聞えてない様な素振りでお茶を飲んで「茜。つまらん事、言わんでええ」とお母さんをジロリと睨み付けた。
 でも別に本気で怒っている訳じゃあ無いみたい。だからお母さんは肩を竦ませて、おどけて見せるだけだった。

「そういえば、ばっちゃも2本爪が歪んでるよね」
 なんだか聞いちゃいけない事の様な気がして、今まで理由は聞いたことが無いけど。
 お母さんはその答えを知っていた。
「あんた達が生まれた時にね。ケジメをつけたのさ。あんた達2人を助ける為にね」
「……そうだったんですか。あ、という事は、赤ん坊の私の首に手を掛けた…ってあれ、『圭ちゃんが日本刀でばっちゃに切りつけた』って言うのと同じ話なんですね?」
「うーん、察しがいいね詩音は。あんた代わりに頭首やるかい?」
「お断りします♪ ……おばあちゃん。あの……今までありがとう。それと……今まで……ごめんなさい」
「……すったらん、しょーもない。わたしゃ、なんも知らんね」
 お母さんがばっちゃの手をとり、あたしたち四人の手がコタツの上で重ねられた。
 罪を背負って歪んでしまったけど、本当はとても暖かい、四人の手。
「これから…色々取り戻そうね」

 失われた家族の絆をとりもどそう。

 そう皆が意思を合わせようとした時、がっはっはと笑ってお父さんのでっかい手がにゅうっと現れた。
「いやぁ、さっきからわしだけ仲間外れみたいじゃのう。わしの小指だってほれ……って、ああもう指ごと無かったわぁ。なんつってなぁ! がっはっはっは!」
 ……園崎家女傑4人衆の白~い目がお父さんに集中した。
 が、改心のネタだったのか、お父さんは気分良さそうにがっはっはと笑い続けてる。
 ……お父さん、空気読もうよ……。こういう所、遺伝してなくて良かったよ全く。
 ん? なんで詩音だけあたしのほう見てるんだろ??

--------------------------------------------

「さて、頭首問題がすっきりした所で、はっきりさせておこうかね? 魅音」
「な、なによう? 今度は何なの母さん」
 何だか妙にイヤラシイ顔つきで笑う母さんが気持ち悪い。
 こう言う時の母さんは、大体素っ頓狂な事言い出すに決まってるんだ。
「あんた前原の坊やとはどうなってんだい? 上手くいってんのかい?」
「はにゃぁっ!? ななな、何言ってんのよ母さん!?」
「いやぁ、あの坊やは見所あるよ! 魅音、あたしが頭首やってる間にあんた前原の坊やを婿養子に貰うんだよ。そうすりゃ園崎は、いや雛見沢は大化けするよぉ? 楽しみじゃないかい!」
「ななななな、なんであたあたあたしがけけっ圭ちゃんを! お、お婿さんって?! ケ、圭ちゃんが、おむ、お婿さん!? はぅっ!」
「おお~! そら面白いの! あの時の坊主じゃな? ありゃあ良いぞ。あの坊主ならお父さんも何も文句ないワイ! がっはっははは」
「おぉお父さんまでぇーーーーっ!!」
「わしも文句ねえ。あん坊主はえ~ぇ目をしちょるんね」
 あたしが真っ赤な茹でダコになっている間に、まぁビックリする位の勢いで話題が変な方向へスッ飛んで行くじゃないのさっ。
「ばぁっちゃぁあああああ~~~!!! 皆なに言ってんのよ!! あた、あたしと圭ちゃんはべべっ別にそう言うんじゃないんだからっ!!」

「ありゃりゃ、こんな事言ってるよ。詩音、実際んとこ今、どうなんだい? 脈はあるのかい? 魅音の方はばっちり見たいだけど、一方通行なのかい?」
「ん~、ジワジワと進展はしてるみたいなんですが…正直今の所はレナさんが一歩リードと言う所かと思います」
「お~ぉ。礼奈ちゃんかいね。すったらん強敵やいね。あん子はえぇ子よ。料理もできるし男を立てる事もよぅ心得とる。魅音にも作法を教え込まんといかんかぃねぇ……」
 ちょちょ、ちょっとばっちゃまで何真剣な顔で腕組みしてるのっ。
 あたしを置いてけぼりにして、園崎家の女性会談は面白可笑しい方向へと盛り上がっていった。
「う~ん。お姉の場合はもっと素直になる事が一番じゃないかと思います」
「あぁあんた達いぃ!!! 勝手に人の話でもりあがるなあーーーーっ!!」
「魅音! 親に向かってあんたとは何だい!」
 あたしが耳まで真っ赤にして家族全員を相手にバトルしていると、廊下をパタパタと走るスリッパの音が聞えた。
 障子を開けてあたしの名前を呼んだのは、お手伝いの妙子さんだった。
「魅音さん、お友達が来られてますよー。初詣に行きませんかーって」
 
 げ。なんてタイミングの悪い……。
 家族全員の目がギョロ! っと一斉に妙子さんに向けられる。
 予想外のリアクションに妙子さんは後ずさりした。
 一番行動が早かったのは母さんだった。

「いつものメンバーかい!? 前原の坊やも当然来てんだね!?」
「え、ええ。元気に年始の挨拶をしてくれましたよ」
「ぃよし! 魅音、任せな! 母さんが話をつけて来てやるよ!」
「おおー! わしも行くぞぃ! がっはっはっは」
「私が行かないとまとまりそうに無いですね。お姉、任せて!」
 お母さんは着物の裾を捲くり上げ、お父さんは腕まくり。詩音が親指立ててウィンクしやがりました。
 何をどう任せろと言うのか!?!?
 今までに感じた事の無い危機感! まずい不味いマズイ!
「だーーーーーっ! 駄目ダメ駄目だめ駄目!! あたしが出るから!! みんな絶対そこ動くな!! 動いたらケジメつけるからね!!」
 四つん這いになりながらドタバタと走っていくあたしの後ろで、家族皆の楽しそうな笑い声が聞こえた。
 うぅ~。なんてお正月だ! 絶対絶対仕返ししてやるぅ!

「あっはっはっはっは。あぁ~可笑しい。お姉はホント面白いです」
「ふふふ。魅音はやっぱり元気なのが一番だよ」
「そう思います。圭ちゃんともきっと上手く行きますよ。お母さんとおばあちゃんがお姉に時間を作ってくれましたからね。これでレナさんに負けたりしたら、私がお姉をとっちめます」
「まあ、駄目じゃったらわしが前原の坊主と杯かわせば園崎組の一員じゃ。問題ないわい! がっはっはっは」
「……お父さん、そういう問題じゃないでしょう? ああ、この遺伝子だけが心配です……」

 娘の心配顔も何処吹く風。豪放に笑い続けるお父さんの声と、玄関から聞こえる皆の声。
 園崎の今年は、とても賑やかな始まりを迎えました。
 皆さんにも良い年でありますように。


―― おわり ――
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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

園崎ネタ大好きです!
というか園崎自体が好きなので、こういう小説があって、とても嬉しいです!
【2008/03/05 17:48】 URL | 鬼頭 礼魅 #- [ 編集]


>鬼頭 礼魅さん
コメントありがとうございます!
僕も園崎、と言うかひぐらしのキャラクターは皆好きです。
魅音中心の話が多いですが、他の皆も人間味を出せて書けたらなーと思ってます。
これからも頑張りますねー!
【2008/03/06 05:52】 URL | cvwith #- [ 編集]


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プロフィール

cvwith

Author:cvwith
岡山に生息。
カレーは混ぜてから食べる派です。
「ひぐらしのなく頃に」の二次創作を中心に、ショートストーリー(SS)を書いています。
「うみねこ」もちらほらとやってます。
いずれオリジナルも書いてみたいと野望を持っております。

メアド : kdksf1@mail.goo.ne.jp
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感想・ご意見・イラストなど随時激烈に大歓迎中です!



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