妄想の地図帳
 「ひぐらしのなく頃に」が好きなおっさんが、二次創作やオリジナル物語を書いたりするとかしないとか。
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『約束 ― 選択肢のB ― ① 共通パート』
 皆様お待たせしました。(待っていて貰えたなら嬉しいなーと言う願望)
選択肢のB、アップします。
どうやら私は真性の変態だったさんらしく、大変盛り上がってしまいました(苦笑

とりあえずこちらは、選択肢のAとの共通パート(前半部分)です。
Aを公式掲示板にリンクしてるので要らないかな? とも思いましたが、まあ一応、という事で。
Aを読まれている方はすっ飛ばかして下さい。



 土曜の半ドン授業を終えて俺が家に帰ると、父さんと母さんは家の前で車に荷物を積み込んでいる真っ最中だった。
 父さんが俺に気付き、機嫌の良さそうな笑顔で手を振る。
「それじゃあ父さん達行ってくるからな、圭一。火の元の管理には十分注意するんだぞ」
 自転車を駐車場の脇に止めながら、大荷物を積み込む父さんに俺は親指を立てた。
 黒色のキャリーバッグは、測ったように車のトランクにすっぽりと納まった。
 何度も出張を繰り返している間に見つけた最高の一品だと、何かの際に親父に自慢されたっけ。
 母さんのキャリーバッグは、それよりも一回り小さい。
 ベージュのキャリーバッグを積み込むと、トランクの中には一部の隙も無くなった。
 出発の準備をしながらも親父は俺に、留守中の注意事項を五月蠅い位に飛ばしてきた。
 やれ風呂を沸かす時はああだとか、油を使う時はこうだとか。自分は普段全くと言っていいほどやらない癖に、まあ細かい事この上ない。
 今言っている事の十分の一でも良いから実行に移してくれれば、きっと母さんの苦労は激減するだろうな。
 辟易とした俺は、母さんに救援のサインを目で送った。
 母さんは随分前から俺達のやりとりを見てクスクスと笑っていた。
「ふふふ。――あなた、そう心配しないで大丈夫ですよ。圭一だってもう子供じゃないんですから。ね、圭一」
「む……そ、そうかい母さん?」
「勘弁してくれよ父さん。――こう言っちゃあ何だけどさ、今や俺より父さんの方が自立できて無いと思うぜ」
 俺がそう言うと父さんは怒ったような顔をして見せたけど、「そうですよ」と母さんに小脇を肘で小突かれて苦笑いを浮かべた。

 雛見沢に引っ越して一年と半年が過ぎた。
 二回目の夏頃には、米焚きと簡単な卵料理位はできる様になっていた。
 洗濯機の使い方は秋頃覚えた。だけどまだ「一緒に洗濯してはいけない物」を混ぜてしまったりする事がある。たまにだ、たまに。
 ああ、風呂の焚き方はもっと前に覚えたぜ?
 掃除は……まあ、やる気の問題だ。

「この間の朝ごはんだって、俺が作っただろ? 味噌汁と玉子焼き」
「む、それもそうか。――いやあ、そう考えると、圭一も随分逞しくなったもんだなぁ」
「それもこれも魅音ちゃんのお陰ね。ちゃんと感謝してるのぉ。圭一ぃ?」
 今度は俺が肘で小突かれる番だった。しかも両方から。
 父さんも母さんもイヤラシイ笑いを浮かべて「どこまでいってるんだ」やら「焦っちゃ駄目よ」やら好き勝手な事を言い出す。
 俺が家事全般のスキルを身に付け始めたのは確かに魅音の指導の賜物である所は大きかった。
 だがこうも好奇の目で見られちゃあ、素直にもなれやしない。
「もういいから早く行きなよ。久しぶりに夫婦水入らずの旅行なんだろっ」
 有無を言わさず二人を車の中へ押し込む。その間もデートコースがどうやら赤飯がどうやらと、まあ五月蠅かった。
 全く、どうしてこう親ってのは、子供のやる事に首を突っ込みたがるのかね。
 バタンと乱暴に俺が助手席のドアを閉めると、父さんは笑いながら車のエンジンを掛けた。
 さっきも少し触れたけれど、今回のはいつもの仕事の出張では無く、土・日・月と、少々変則的な日程ではあるけれど、夫婦水入らず二泊三日の小旅行なのだ。
 何だかんだで最近忙しかった父さんのスケジュールが久しぶりにポッカリと空いたので、伊豆の方へ温泉旅行に行くらしい。自分達へのご褒美って訳だ。
 俺もメンバーに入っていたのだが、そこは気を利かせて辞退した。
 ――まあ……あれだ。その、俺なりの計画って言うか、そう言うのも……まあ、有った訳だが。
 軽快に砂を噛む音を残して、両親を乗せた車は旅立った。
 俺は気の無い素振りで手を振りつつ、その姿が見え無くなるまで見送った。
「よし……行ったな」
 一人言ちた後、カラコロとなるサンダルの音も軽やかに、俺はいそいそと家の中へと舞い戻った。
「こっちも、久しぶりの『水入らず』だぜ」
 知らずの内に小さなガッツポーズをとっていた。

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 ここの所、魅音は慌しい毎日を送っていた。
 高校では期末試験があったし、家に帰ったら帰ったで今度は村の代表としての仕事が待っていた。
 村興し事業の話し合いや、高速道路誘致の計画進捗。それに地方交付税交付金を申請するだしないだと、色々難しい話をしているらしい。
 本来ならこう言った話は、まだまだお魎さんや茜さん(ばあちゃんとかおばさんと呼ぶと怒られる)が公由村長達とするべき話なのだが、悪い事に一月程前から、お魎さんが体調を崩して入院してしまっていた。
 最初の内は魅音がお魎さんの看病をして、茜さんが頭首代行の代理をやっていたのだが「丁度ええから、魅音にやらせればええ」とお魎さんの鶴の一声一閃、その役割が入れ替わった。
 それからと言う物、魅音はただでさえ出来の良くない学業に付け加え、村の運営に管理に祭事にと、東奔西走の忙しい毎日を送っていた。
 ……悪い、ややこしい話ばかりしてもつまらないよな。――まあつまりはそういった諸々で、ここ暫く魅音とは、ゆっくり過ごす時間が無かったって訳だ。
 顔を合わせても二、三言挨拶を交わす程度で、何とも味気の無い日々。
 レナや梨花ちゃん達と楽しく過ごしながらも、どこか満たされない毎日。
 そんな先週の日曜日、久しぶりに魅音から電話が入った。
「来週の土曜日、午後から完全に暇になりそうなんだけど……会える?」
 おりしも家族伊豆旅行計画が進行している真っ最中の事だった。
 俺は即座に二つ返事を返し、この週末は『家族の絆を深める時間』ではなく、『夫婦が恋人時代を取り戻す為の時間』を与えてあげる事にしたのだった。

「う゛、う゛ぅんっ。ああ、あ~あ~」
 ソワソワして声が上ずったりしない様に、電話機の前で発声練習をする。
 案の定、小鳥のような声が出たので恥ずかしかった。
 頼むぜ俺。ほんの二・三週間ぶりにゆっくり会えるってだけだぞ?
 こんなに緊張しているのなんか、あいつに悟られたりしてみろ。きっと一ヶ月は「圭ちゃんは寂しがり屋さんでちゅね~」なんてからかわれるに決まってる。
 ――でも、その久しぶりに会えるシチュエーションってのが、両親の居ない自宅に二人っきりか……ヤベ、ドキドキしてきた。
 しつこい位に深呼吸を繰り返し、呼吸を整える。
 四回目に息を吐いた時、思わず苦笑いが漏れた。
 ――あ~駄目駄目。俺の負けだな。俺の負け。
 こんな事してる時点で、会えるのを滅茶苦茶楽しみにしてるって事じゃないか。
 早くあいつの顔が見たい。最近のあいつの身の回りで起きた出来事を教えて欲しい。俺の馬鹿な話を聞かせてやりたい。
 別に何もしなくても良いし、するなら、何か特別な事をしても良い。
 あいつの喋る姿が見たい。大袈裟な身振り手振りが見たい。揺れるポニーテールに、心を躍らせたい。
 ダイヤルを回す。
 一瞬の沈黙を経て、呼出し中の電子音が心臓に流れ込んでくる。
 準備運動の甲斐も虚しく、俺の心は電子音よりもはるかに高音で上擦りはじめた。
 呼び出し音は三度目の途中で途切れた。
 そして飛び込んでくる、聞き慣れた――聞きたかった声。
「はい。園崎です」
「お、魅音か? 俺だよ」
「あっ、圭ちゃん?」
 暫く「元気か」「元気だよ」「そっちはどう」の応酬が繰り返され、思わず頬が緩む。
 久しぶりに響く心地良い音色が、あれ程緊張していた俺の心をあっという間に溶かしていく。
 俺に必要なリズムがここに有る。改めてそれを実感した。
 今日は何をして二人で過ごそうか。今日一日の計画に、俺は心を馳せた。
「もう来て良いぞ。父さん達、今出掛けたから」
「あ……あぁ。う、うん……」
 予想外の不協和音が、魅音の口から紡ぎ出される。
「どうした?」
「…………ごめん。今日…・…駄目になっちゃった」
「え……?」

 緊急の会議が入ってしまった。茜さんも別件があり動けないので、魅音が出席するしかない。長引いてしまう可能性が高い。
 ――そういう事らしい。
 この一週間、それだけを楽しみにして来た今日という日が、たった数秒間でつまらない日に変ってしまった。
 覚えたての、ベーコンを混ぜた塩味のちょっと濃いスクランブルエッグを食べさせてやろうと思っていた。
 先週亀田君とエンジェルモートに行った時の、マヌケで最高に笑える話を聞かせてやろうと思っていた。
 忙しい魅音の愚痴の一つでも聞いて、少しでも負担を和らげてやろうと思っていた。
 太陽が沈むのを眺め、貴重な一日が過ぎて行ってしまう寂しさを、二人で感じたかった。
 全部、妄想で終った。
 ――別に今日でお終いって訳じゃないさ。今はちょっとすれ違っているだけで、いつだって、今言った事をやるチャンスは、幾らだってある。
 だけど……今日……そう、したかった。

「そ……っか。――おう。分った」
「ごめんね圭ちゃん。あたしから言い出した事なのに、さ。予定……空けてくれてたんでしょ?」
「しょうが無ぇよ。お前、色々と忙しいんだからさ。気にすんなって」
 まるで何も無かったかの様に、動揺の無い声で喋っていた。
 落胆の様子なんて微塵も現れていない、淡々とした口調に自分でも驚く。
「まあこっちはこっちでレナ達でも呼んでさ、適当にやるから気にすんなよ」
「え? ……あ、うん…………あのっ、圭ちゃん?」
「何だよ」
「――――うぅん、何でもない。今日はホントに御免ね。また今度、絶対埋め合わせするから」
「いいよ別にそんなの。お前が悪い訳じゃないだろ」
「……はは、そっか……。うん…………じゃ、あたしそろそろ、行くね」
「おぅ。――頑張れよ」
「ありがと。じゃ」
「あぁ」

 通話の途切れる音を待つ事無く、俺から受話器を置いた。
 電話に触れている右腕から登って来る、行く当ての無い苛立ちに俺は鼻を鳴らした。
「ちぇ」
 何だってんだ全く。こんな事なら、父さん達に着いて行った方が良かったじゃないか。
 大きく溜息を吐き、これからどうするかな、と思考を巡らせてみるが、紙やすりの様にささくれ立った気持ちが邪魔をして、さしたる名案も浮かばない。
 廊下の壁に軽く拳を当てた。木壁に白い壁紙を貼った壁は、ゴツンと存外に重い音を立てる。
 とりあえずやる事も無いのでテレビでも見ようと思い、ゴツゴツと壁に八つ当たりをしながらリビングへと歩いた。
 ガラステーブルの上に置かれた新聞と主婦向け雑誌の間からリモコンを取り上げ、電源のスイッチを押し、ドッカリと横長のリビングソファに沈みこむ。
 忙しなくチャンネルを切り替えてみるが、この時間帯はさして面白い番組なんてやってない。鹿骨市の極端に少ないチャンネル数はあっという間に一周した。
 サングラスの司会者が電話に向かってお決まりの台詞を言っている場面で、玄関のチャイムが鳴った。
 テレビじゃなくて、うちの玄関のチャイムだ。
「誰だろ?」
 リモコンをソファに放り投げ、パタパタとスリッパを鳴らし玄関へと向かう。
 誰だろうか。特に来客の予定は聞いていない。
 ――実はさっきの電話は魅音の悪戯で、白い歯を見せて笑う魅音がドアの向こうに立っている。
 そんな事を、少し期待した。
 九割方外れるであろう淡い期待が大きくなり過ぎないように自制しつつドアノブを回す。
 開け放ったドアの向こう、肌寒い冬の大気に白い息を吐きながら、来客者は控えめに、そこに立っていた。
 見知った顔に俺は破顔して応える。
「――よう。どした?」
「突然ゴメンね。お漬物のお裾分け持ってきたんだけど……お昼はもう済ませちゃったかな。かな?」
 四角い箱を包んだ紫色の風呂敷包みを持ち上げて、レナは笑顔で小首を傾げた。

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 白色のロングコートに白色のファーマフラー、白色のイヤーマフと、全身を真っ白に包んで、レナは控え目に立っていた。
「良いタイミングだぜレナ。飯も食ってないし、すげえ暇を持て余してたんだ。まあ上がれよ」
「え、お邪魔しちゃっていいの? 一家団欒のお邪魔しちゃうんじゃないかな、かな?」
「親はさっき旅行に行っちまったよ。心配しなくて良いぜ」
 そう告げると、レナは頬を赤くしてふえぇ?! と唸った。
「そそそ、それじゃ圭一君とふふ、二人っきりじゃないのかな。かな?!」
「何だよ。レナは俺と二人じゃ嫌か?」
 ここぞとばかりにいつもの調子でからかってやった。
「そ、そんな事無いよっ。そんな事無いけど……はうぅ」
「一人で食う飯は不味くて仕方ないだろ。予定とか無いんなら、上がって行けよ」
「う、ううぅ。お、お邪魔しますぅ~」
 レナはやっと観念し、一緒に飯を食べる事を了承してくれた。
 相変わらず楽しいリアクションを返してくれる奴だぜ。玄関に腰掛けて、何やらはぅはぅ言いながらブーツをあたふたと脱いでいる。
 まあ何にせよ今日の昼飯は美味い物が食えそうだな、と多少打算的な事を俺はその時考えていた。
「おーっほっほっほ! 誰もいない自宅に女の子を連れ込もうとするなんて、相変わらずスケベ大王ですわね圭一さんはっ」玄関ドアの影から、緑のピーコートの上に黄色いタンポポの花を咲かせて、唐突に沙都子が現れた。
「うおビックリしたっ。沙都子お前いたのかよ……って勢揃いじゃねえかっ」
「思春期の若者を、一つ屋根の下で二人っきりにする訳には行かないのですよ。にぱ~」
「圭一。魅音に黙っていて欲しかったら、シュー三個を僕に奉納するのですよ」
 次から次にヒョイヒョイとちびっ子組が現れた。
 梨花ちゃんと羽入は、お揃いの赤地に黒のチェック柄の入ったダッフルコートを羽織り、すっぽりと被ったフードの中で笑いながら、お互いの右手を俺に向かって突き出した。
「さあさあ早く僕たちにシューをよこすのです。さもないと魅ぃに密告なのですよ?」
 あぅあぅにぱ~、と詰め寄る小悪魔に一つ嘆息を漏らした後、俺はズカズカと歩み寄ってその後ろ襟をむんずと摘んで持ち上げた。
「馬鹿な事言ってないでさっさと上がれ」言いつつお二人様を室内へとご案内。レナが絶妙なタイミングで二人の靴をシュパパッと脱がせる。なかなかのコンビネーションだ。
 
 つまらない筈だった一日は、とても賑やかな一日に変ってくれた。
 今日の料理長は竜宮シェフと北条シェフ。
 何でも沙都子は、最近料理スキルが向上している俺に対抗心を燃やしているらしく、すこぶる料理が上手くなったらしい。
 俺も何か手伝おうと思ったのだが「男子厨房に入るべからずですわ」と一括されて追い出されてしまった。
 ふふん、いいだろう。お手並み拝見と行くぜ、沙都子。
 仕方なくリビングに行くと、梨花ちゃんと羽入は、なにやら妙な小芝居を打っていた。
 梨花ちゃんは煎餅をかじりながらテレビの昼ドラに突っ込みを入れ、どこで手に入れたのかは知らないが、羽入は眼鏡を掛けて新聞を読みつつ、その突っ込みに曖昧な相槌を打っている。
 たまに自宅でやっている『夫婦ごっこ』だそうだ。どうでも良いけど新聞、逆さまだ羽入。
 
 小一時間も待たない内に、テーブルの上は暖かな料理の数々で埋め尽くされた。
 特に凝った料理や物珍しい料理が並んでいる訳じゃない。だけどその一つ一つが生唾を飲み込まずには居られない香りを放ち、食欲をそそっていた。
 カリカリに揚げられた唐揚げは、まるで宝石のような輝きと共に、空っぽの胃を刺激して止まない芳しい香りを放つ。
 コイツが沙都子の最新作だそうだ。こいつは……悔しいが俺の完全敗北だ。思わず沙都子の頭をくしゃくしゃと撫でまくってやった。
 そしてもう一つがレナの最新作、とり肉と野菜の黄身焼き。これがまたお前……絶品!
 メインの鶏肉が黄身と見事に絡み合い、その旨みを互いに引き出し、絶妙な加減の塩コショウがそれを引き立てる。
 しいたけ、にんじん、ブロッコリーと野菜もふんだんに盛り込まれていて、栄養バランスも最高! もうなんだこれ、本当にお金払わなくて良いの? って感じだぜ。
 その脇にひっそりと添えられているのは、ナスとたくあんの即席漬け。さっきレナが持って来てくれたやつ。これがまた……ご飯が進むのなんのって!
 レナと沙都子が作ってくれた昼飯は美味かった。お世辞抜きで絶品だった。
 思わず沙都子を「高いたか~い」してしまった程だ。「赤ちゃんじゃありません事よっ」と真っ赤な顔で怒られたけれど、まんざらでもなさそうだった。
 レナには、是非うちに永久就職してくれとお願いした。真っ赤な顔で、見えないストレートを叩き込まれた。
 まんざらでもなさそうだった。
 胃も心も満腹になった俺達は、中庭に面したガラス戸から差し込む陽の光を浴びならが、まったりと小休憩をとる事にした。
「はーっ美味かった! いやあ満足満足」
 俺はどっかりと床に大の字になり、ちびっ子三人組はロングソファーで、肩を並べて、一斉にお茶を啜った。
「み~。沙都子の唐揚げは、どんどん美味しくなっていくのですよ」
「おっほほほ。当然ですわー……と言いたい所ですけれど、やっぱりまだまだ、レナさんの腕前には敵いませんわ」
「レナのお料理も沙都子のお料理も、とっても美味しくって、僕は大好きなのです。きっとオヤシロ様も大喜びなのですよ。あぅ!」
「えへへへ。皆が喜んでくれるのがレナは一番嬉しいから、これからも頑張っちゃうよー。はうーっ!」
 キッチンでガッツポーズをとり、レナは満面の笑みを浮かべた。
 うちのリビングはキッチンと繋がっているから、レナのその様子が、リビングで大の字になっている俺からもはっきりと見えた。
 キッチンから、食器が当たるカチャカチャと言う音と、蛇口から流れる水の音が聞えてくる。
 白い編み上げセーターの袖をまくり、レナは食器洗いを始めていた。
「いいよレナ。そんなの俺が後でやっておくからさ。お前も一息入れろよ」
「ダメだよ圭一君。油汚れはね、すぐ落さないと結構しつこく残っちゃうんだから」
 ……そうなのか。家で主婦やっているだけあって、流石にマメだな。――しょうがない。俺も手伝うか。
「よっ……こらしょっと」中年臭い掛け声を掛けつつ起き上がり、俺もキッチンに入って腕まくりをした。
「はぅ? いいよー。圭一君は休んでて」
「そう言う訳にもいかないだろ。あれだけ美味い物食わせてもらった上に、後片付けまで任せたんじゃあ、気が引けるぜ」
「み。気が付かなくてごめんなさいなのです。ボクも手伝うのですよ」
「あー、良い良いって。梨花ちゃん達はお客さんだからな。ゆっくりしてろよ」
「それを言ったら、レナさんもお客様です事よ?」
「あっはは。レナはお片づけも大好きだから、勝手にやってるだけなんだよ。だよ」
「そう言うこった。お前らはまあゆっくり日向ぼっこでもしてな。後でたっぷり遊んでやるから」
 梨花ちゃんは、にぱっと笑って、沙都子は渋々と言う感じで、羽入は満腹でトロンとしちまって、初っ端から気にした風も無く、日向ぼっこを楽しみ始めた。

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 料理をする男子の例に漏れず、俺も後片付けは嫌いだった。面倒臭いからな。
 だけどこうして二人で話をしながらだと、皿洗いの時間もなかなか悪く無いもんだと見直した。
 これは別に皿洗いに限ったことじゃあないんだろうな。一人でやっているとつまらない事でも、二人でやれば、きっと何でも楽しい事に変るに違いない。
 今度からは、母さんの手伝いをしてやろう。――――たまには、な。
 食器の立てるリズミカルなBGM。それに合わせて続いていた会話がふと途切れ、今は気持ちの良い沈黙に、水の音がサラサラと流れていた。
「今日、ね」
「ん?」
「今日、本当は魅ぃちゃんとお約束の日じゃなかったのかな。かな?」
「――知ってたのか」
「ん。ちょっとだけ。魅ぃちゃんに聞いた。魅ぃちゃん、すっごく楽しみにしてたよ」
「しょうがねえよ。あいつも……忙しいからな」
 俺は事のあらましをレナに伝えた。話していると、魅音と電話をしている時の落胆と苛立ちが、また鮮明に蘇ってきた。
「……で、冗談でお前らと過ごすかなって言ってたらさ、お前ら本当に来るんだもんな。笑っちまったよ」
 レナは、あははと笑ったが、その眉根は困ったように、八の字になっていた。
「残念だったろうね……魅ぃちゃん」
 小さな呟きにも似た言葉は、妙に鮮明に耳に入った。イライラの蘇った俺の心に小波が広がっていく。
「おいおい、すっぽかされたのは俺の方だぜ? 家族旅行をキャンセルしてまで待ってたってのにさ」
 最後の皿を水棚に戻し、手についた水をタオルで拭き取りながら、俺は吐き捨てるように言った。
 仕方ないとか言いながら、全然割り切れてやしない。
 レナは水切り台の上にマグカップを逆さに置きながら、俺に背を向けたまま、また乾いた笑いを漏らした。
「圭一君は怒ってるのかな? 魅ぃちゃんが今日、圭一君との約束を守れなくて、怒ってる?」
「んぁ? そりゃ、まあ……ちょっとだけ……いや、事情は分ってる。分ってるつもりだけど……やっぱりちょっと、腹も立つかな……って」
 何だか妙にバツが悪くて、口ごもった。こんな事でいちいち怒るなんて、男らしくない? 器が小さい? そんな風に思われちまうだろうか。
 所在の無さに、視線をリビングに泳がせた。ロングソファーはガラス戸の方へ向けて置いてあるので、こちらからはその背中しか見えない。
 その背中から、紫のあやめにブラックベリー、黄色のタンポポ。三つの小さな花が、寄り添うようにチョコンと生えている。
 春になれば、きっと賑やかに咲き乱れる元気な花達は、今は大人しく太陽の光を満喫している様だ。
 随分大人しい所を見ると、全員ウトウトしちまってるのかもしれないな。
 不意にロングTシャツの肘を、くいくいと引っ張られる感覚に振り向く。
 指先でほんのちょっとだけ俺のTシャツの先を摘み、反対側の手をプラプラと振るジェスチャーをしながら、すぐ脇にレナが立っていた。
「タオル、貸して?」ニコリと笑う。
「お? ああ。悪い悪い。ほら」
「ん、ありがと」
「これで全部、片付いたな」
「うん。やっぱり二人だと早いね。ありがと圭一君」
「おいおい、お前が礼を言うのはおかしいだろ。ははは」
 あ、そっか、と舌を出して笑うレナ。
「みんな、お昼寝しちゃったかな――?」
「あぁ。多分な」
 静かで、穏やかな時間が流れていた。
 そんな中、俺の心にだけ小波が立っている事が……少しだけ悔しかった。

 ――ふと、レナの姿に、魅音が重なる。
 俺の肘を引いたのが魅音だったなら?
 一緒に後片付けをしたのが、魅音だったら?
 温かな日差しを並んで眺めているのが、魅音だったら――?

「圭一君は、怒ってるんじゃないよ」
「あ、えっ?!」
 妄想に入り込んでいた所に突然声を掛けられて、少なからず動揺した。
 レナと魅音を置き換えた事に対しての、罪悪感も含まれて。
 逆にレナは、俺の驚きっぷりにキョトンとしていたが、すぐに気を取り直して、もう一度言った。
「圭一君は、魅ぃちゃんを怒ってるんじゃないよね?」
「ああ、別に怒ってないよ。仕方ないって、分ってるって」
「やっぱり、魅ぃちゃんが居ないと、寂しいよね」
「え、いやそれは別に――」
「一緒に居たかったよね? なのに一緒に居られなくてガッカリして……寂しかった……でしょ?」
 静かな声だけれど、有無を言わせない力強い口調。
 な、なんだよ。怒ってんのかレナ……何で?
 じぃ……っとレナが俺の瞳を覗き込んでいる。
 怒っているとも、微笑んでいるとも、哀しんでいるとも取れる不思議な表情で、首を傾げてじっと俺の顔を覗き込んでいる。
 俺の答え如何によって、そのどれにでも変化する可能性がある……そんな風に、見えた。
 だから、勢いだけで「寂しくなんか無いぜ」と否定しようとした言葉を、グッと飲み込む。
 一つ息を吐いて、自分の心に聞く。

 怒っているつもりは、無い。
 楽しみにしていたイベントがドタキャンされて、ちょっと苛々していただけさ。
 でも、皆が遊びに来てくれたお陰で、それは随分と収まった。
 それでも、どこか満たされなくて、ささくれ立っちまっているのはやっぱり……魅音が今、ここに居ないからだろう。
 魅音が今、ここに居ない。その事に俺は……やっぱり腹を立てているんだな。そう結論付けようとした時、
『寂しかった』――レナの言葉がよぎった。
 ――分かってる。本当はそうなんだ。それを認めたくなくて、誤魔化したくて、寂しさを怒りに転換してるだけなんだよな。
 寂しいって事を認めたら……なんつうか、魅音に負けてる様な気がして、認めたくなかったんだ。
 おかしな話だ。別に勝ち負けを競っている訳でも無いのにな。
 俺と魅音は、お互い相手の事が、その……好きだ。
 それは解ってる。解ってるけど、俺はどこかで『魅音の方が、俺に惚れてる』とか、思い込みたがってる。
 精神的に、主導権を握りたがってんだ。
 それなのに最近は魅音の都合が多くて、あいつに合わせて俺が我慢したり、都合をあわせる事が多かった。
 様は拗ねてんだよな、俺。で、それすら認めたくなくて、イライラしてんだな。
 …………小っちぇえなあ。ええ? 前原圭一?
 付き合いだして一年経とうかってえのに……いつまで薄っぺらなプライドに固執してんだか。

 レナはじっと瞬きもせず、瞳を覗き込んで俺の答えを待っている。
 ……ちぇ。どうせ全てお見通しなんだろうな。レナは。
 こいつには多分一生頭が上がらない。そんな気がする。
「まいった」
 言葉と共に大きく溜息を漏らし、俺は両手を上げた。
「認めます。前原圭一は、あいつが居なくて寂しいです。はい」
 全ての感情を含みつつ、全ての感情を消していたレナの顔に、やっと表情が浮かんだ。
 見ている者は皆、同じ表情を作らずにはいられない。そんな、暖かい笑顔。
 あんまり可愛い笑顔だったので、思わず視線を逸らせた。
「だったら、魅ぃちゃんにそう言ってあげれば良かったのに~」
「そんなの言えるかよっ」
「はぅ。何でかな。かな?」
「恥ずかしいからに決まってんだろっ。それに何つうかその……寂しいとか、そんな事男が言うの……カッコ悪いじゃないかよ」
「そんな事無いよー!」
 腰の後ろで両手を組み、クルリと踊るように回りながら、俺の前に移動してレナが言った。
「好きな人を喜ばせたり、安心させてあげたりする事って、恥ずかしい事じゃ無いんじゃないかな? ――ね、圭一君」
 そう言うレナはとても大人びていて、自分のガキさ加減がひどく恥ずかしかった。
「…………やっぱり照れるよ」
「あはっ。――そうだね。圭一君はそれで良いのかも。……レナも圭一君のそう言う所、好きなのかも知れないから」
「――……は? レナ今何か言っ――」
「はーい、竜宮レナのヒントコーナーこれにて終了~! 圭一君、今夜はちゃんと魅ぃちゃんにお電話するんだよ? だよ!?」
「お、おう。で、レナ――」
「は~う~! みっんなっの寝っ顔っはどっんなっかな~~♪ 梨っ花ちゃんはっにゅちゃん、沙っ都子っちゃん~♪」
 俺の言葉も聴かず、物凄い勢いで回転しながらリビングにすっ飛んで行くレナ。
 大人びた様子なんて一切無い、いつものかぁいい物好きのレナだった。
 目が点になる。
 思わず頭を掻いた。
 しっかりした、母親のようなレナの二面性。打たれ弱くて、守ってやりたくなる魅音の二面性。
 いや、もっともっと沢山の顔を二人は……いや、女ってのは持ってるんだろうか??
 涎を垂らしながら三人の寝顔を値踏みしつつ「今日はどの子にしようかな~」と鼻息を荒げるレナを見て、自分の未熟さをひしひしと感じる俺は、一体今、どんな顔をしているんだろうか……。

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「ふい~」
 濡れた頭をバスタオルでガシガシと掻き回しながら、二階の自室の扉を右足で開ける。
 雛見沢の冬にしては今日は随分と暖かく、ロングTシャツと短パンだけでも寒くないのが有難い。
 壁掛け時計の短針が夜の九時を指し、長針は少しだけ右にずれていた。
 布団の上にドッカリと腰を下ろし、缶ジュースの蓋を開け、一気にグイっと飲み干す。
「っかー! 風呂上りの一杯は最っ高だな」
 親父の様な台詞を吐きながら口を拭い、空になった缶を放り投げる。
 左手は添えるだけ。……っよし見事シュート成功。センスあるな、俺。
「さて……と。どうすっかな」
 独り言ち、テレビのリモコンに似た機械に目を落す。
 さっき一階から持って上がって来た、電話の子機だ。
 別にレナに言われたからって訳じゃあ無いけど……魅音に掛けようと思って、持ってきた。

 あの後結局俺達は二時間ほど昼寝した。で、起きた後はボードゲームで散々盛り上り、夕方にはオレンジ色に包まれて、みんな帰って行った。
 その後夕食を作ろうと思い、冷蔵庫を開けた時はビックリした。
 多分昼ご飯の時だろうけど、レナが夕飯用の下準備までしてくれていたんだ。
 そんな時間あったか? と疑問に包まれつつも両手を合わせて感謝し、美味しくいただいた。
 本当にあいつは良い嫁さんになるな。間違いないぜ。
 その後風呂に入り、今に至る。
 掌の上で、ペンの様に子機をクルクルと回し、俺はウジウジしていた。
 ――何て言って掛けりゃいいんだろ? 別に喧嘩したとか、そう言う訳でも無いけれど、妙にばつが悪いのは何故なのかね。
 ここの所あまり会ってない上に、今日はドタキャンがあったからか?
「よっ、大変だったな」……何か違うな……「お疲れ。こっちは結構楽しかったぜ?」……これは無いな。あんまりだ。
 くそ。こういう事は考えても仕方ないよな。兎に角掛ければ何とかなるさ。無理矢理踏ん切りをつけて、ダイヤルを押し始めた。

 コツン。

 何か音が聞えて、ダイヤルを押す指が止まった。窓の方からだ。
 小石とか昆虫が、窓に当たった様な音……だった?
 おいおい何だよ気味が悪いな。そう思いながら、暫く窓を見つめていた。すると
 コツン。
 また音がした。今度は見ていたので間違いない。何か……いや、誰かが……下から小石を投げて、窓にぶつけている!
 心臓が、キュウと一回り縮む。
 こんな時間に一体誰が? ――よしてくれ、今……いや、今夜俺は独りぼっちなんだぞ?
 …………いやいや待て待て。落ち着け俺。泥棒とかだったら、合図なんかする訳が無い。そうだろう?
 兎に角、窓を開けて覗いてみよう。
 大丈夫だ。例えヤバそうな奴が下に立っていたとしても、入ってこれやしない。
 さっき確認したから間違いない。一階の戸締りは完璧だ。
 玄関、裏口はもちろん、リビングの雨戸も閉めたし、トイレや風呂の窓の鍵もバッチリ閉めた。どこからも入ってこれやしな…………窓?
 そういや……二階の窓は鍵、閉めてない……。
 ――いや流石にそれは無いだろ?! そう自分に言い聞かせつつも半ばビビリつつ、ゆっくりと窓に近づく。
 四つん這いで、そろり、そろり。
 そろりそろり。
 手を伸ばせば届く距離まで辿り着いた。やっぱりだ。鍵、掛けてない。
 恐る恐る右手を伸ばし、サッシの取手に手を掛け

「ばぁっ!!」
「うおおおおおおおおおっっっ!!!」

 肺の中ッ……叫び声と一緒にっ、一気に、全部に、一片にみんな飛び出したっ!!
 「外から」窓を開けられたっ!! ししし、心臓……っ、い、痛っ……ドクドクって、お、収まれっ!!
 二階のっ! 窓の外っっ人っ??!
「ふひゃ、うっるさっ。ちょっとるるさいれよ圭ちぁん~~。もう真夜中らしょおがぁ?」
「ハァッ、はあっ、はっ……う、お、おま……お前?」
「やぁほ~圭たん~。お元気ぃ~?」
「ーーーーっ魅ぃいいい音おおおおんんっ!!!」
「なぁにぉう? 見ぃれば分るれろょうがぁ~~? にっはっはっはっは」
 窓枠に頬を乗せ、真っ赤な顔でヒラヒラと手を振るのは……間違いなく魅音。
「お前、何やってんだよ?!」
「何ってらによぅ?」
「何もかもだっ。真夜中に、人ん家の二階によじ登って、ん何やってんだよ!」
「なぁによぉ~。圭ちゃんに会いたくて来らんじゃなぃろさぁ~。いじわるぅ~」
「意地悪じゃねぇだろっ。大体お前なあ……って、臭っ。息、くさっ! ――お前、酒飲んでんのかよ!」
「飲んでますよぅーだ? ぷはーっ」
 くっせええぇっ。さも嬉しそうに俺の顔面に吹きかけた魅音の息は、アルコールそのものだった。こいつ、相当飲んだなこりゃ。いや、飲まされたか?
 よく見りゃ顔なんて茹でダコ以上に真っ赤じゃないか。トロンと垂れ下がった目を潤ませて、フラフラ揺れてやがる。
 こんな状態で二階の屋根までよじ登れたのが不思議だ。このまま屋根の上に居させたんじゃ、いつ落ちるか分ったもんじゃない。
「ったく。……兎に角、部屋ん中入れ。説教はそれからだ。そんなとこでフラフラされてたんじゃ、見てるこっちが冷や冷やしちまう」
「ぅえっへっへ~~。おぢゃましますぅ゛~↓」
 よっこらせと窓枠に足を掛け、フラフラしながらも何とか無事室内へ。
 何ら悪びれた風も無く「おっす」と右手をヒョイと上げ、窓枠に腰掛けてケタケタと笑う。
「ハァ……。いいから靴ぐらい脱げ。靴」
「うぇ? ああ、メンゴメンゴ……よしょ、よいしょっと……あるぇ、なかなか……脱げないろ」
 覚束ないのは指先か、それとも視界なのか。一向にほどけない靴紐と格闘する魅音。
 口を数字の3の形に尖らせて悪戦苦闘する姿が面白かったので、暫く眺めていた。
「むぅー、けぇちゃん固く結びすぎらよー。うーっ! うーっ!」
 ぷくく。まるっきり幼稚園児だな。結び目をもっと近くで見ようと膝を曲げ、右足を顔の高さまで持ち上げる。
 近くで見えるようになったのは良いけれど、バランスが悪くなって、フラフラしちまってまあ……。今度は手がついていってないじゃないか。
 くっくっく。だめだこりゃ。
「おいおい、気をつけろよ? そんなに仰け反ったらお前、落っこちるぞ」
「……っと、んもーーっ! って、おろ? おろろろ?」
「! わっ! バッ馬鹿ヤロウ!!」
 言った矢先、魅音は後に向かって大きくバランスを崩した。
 全身からさあっと血の気が引く。
 無我夢中で魅音に飛びついた。
 どこをどう掴んだのか解らない。必死で伸ばした両腕で魅音を掴み、そのままプロレスのバックドロップの要領で、自分の体ごと、力任せに思いきり後ろに反り返った。
「ふんぬらばぁーっ!」
 どすんっ、と鈍い音を立てて、背中から布団の上へ転がり込む。
 魅音の靴が暗闇に舞い、屋根を転がって地面に落ちる音が聞こえた。
 魅音は――何とか落っことさずに済んだ……。
 胸の上にある確かな重みに安堵し、仰向けに寝転がったまま天井に向かって、大きく溜息を吐いた。
「っふううぅーー。……ったく、頼むぜ。――おいバカ魅音。大丈夫か?」
 首だけを起こし、胸元に視線をやる。緑色の髪を黄色のゴムでポニーテールに結わえた頭が、俺の胸に顔を埋めている。
 左手が俺のシャツの肩口を頑なに握っている所を見ると、ちっとは落っこちる恐怖を感じたんだろうか。
 名前を呼んでもピクリとも反応が無いので、空っぽの頭をポコポコとノックしてみた。
「もしもーし、酔っ払いさん。生きてますかー?」
「…………」返事が無い。
「うん……? おい魅音、どした。どっか痛めたのか?」
「……」
「お、おい?」不安が頭をよぎる。窓枠にでも頭をぶつけさせちまったんだろうか?
 肘を突いて上半身を起こし、魅音を隣に寝かせようと肩に手を掛けた途端、突然魅音がその体を起こした。
「うおっ、何だよ無事なら無事って言えよ……って……み、魅音?」
 俺の腰の上に跨る形で見下ろす魅音の目が、据わっていた。
 さっきまで湛えていた子供の表情は影を潜め、一言も喋らないままじっと俺の目を真っ直ぐに射抜いている。
「な……なん?」
 何がしたいのかさっぱり分らないし、何を考えてんのかもさっぱり分らない。
 つまり完全に酔っ払いだ。
 少しでも何か情報が無いものかと、魅音の姿を頭の天辺から腰までしげしげと眺める。思えば今日初めて、魅音の姿をまともに見た。

 俺の腰の上に乗っかっているデカイ尻は、アジアンテイストな柄の入った薄茶色のゴアパンツに包まれている。なかなか肌触りが良さそうだ。
 上には、鳩尾の下辺りまでしか丈の無いフード付きの黒いショートパーカー。それをチャックの一番下だけを留めて羽織っている。
 その下に着た襟の大きな緑のニットシャツの胸元は大きく肌蹴られていて、その下から黒のTシャツと、ほんのりと赤く染まった肌と、鎖骨が覗いている。
 おお……なんだ…・・・その、鎖骨から首筋に掛けての、桜色に染まったラインが……こう……何ていうか…………そそる。
 俺の腰にスーパーコンボゲージが溜まって行く。
 ――バカか俺は。頭を振って邪な想像を振り払い、もう一度魅音の名前を呼ぶ。
「…………」
「どうしたんだよ……さっきから、ずっと黙って」
「圭ちゃん」やっと口を利いてくれた。
「何だよ――ぅえ?」
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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
あぅ
・・・・引っかいて良い?
【2008/03/13 02:00】 URL | 影法師 #EqLn2XkU [ 編集]


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岡山に生息。
カレーは混ぜてから食べる派です。
「ひぐらしのなく頃に」の二次創作を中心に、ショートストーリー(SS)を書いています。
「うみねこ」もちらほらとやってます。
いずれオリジナルも書いてみたいと野望を持っております。

メアド : kdksf1@mail.goo.ne.jp
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