妄想の地図帳
 「ひぐらしのなく頃に」が好きなおっさんが、二次創作やオリジナル物語を書いたりするとかしないとか。
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『身体測定 ―前編―』
 皆様、物凄くお久しぶりです。
お元気してましたか? 私はお元気です。
ただちょっとばかし忙しく働かせて頂いております。
このご時世を考えると、有難い事です。ホント。
…とは言いながらも、「うみねこ」のEP4を少しずつ進めているんですけどねw
今第1の生贄が終わった辺りです。EP3の中盤から、かなり面白くなってきますね!

それはさておき、随分と更新できませんでしたので、生存報告がてらに昔の投稿作に手を加えた物をアップしてみました。
前編って書いていますが……後編はいつの事やら(汗
まあいつも通りの、謎も何もない日常でございます。暇潰しにペロリ、っと流し読みでもしてみて下さいな。

ではではまた!

『身体測定 ―前編―』


 ―― 昭和59年 春 ――

 季節的には……そうね。今、貴方達が過ごしている世界の季節よりも、少し先って所かしら?
 あれだけ私達を困らせ、楽しませてくれた雪も、さようならを告げたわ。
 星空には暖かな香りが満ち始め、開け放たれた窓枠に腰掛けた私の髪を、夜風が心地よく梳いてくれる。
 そんな季節。
 お陰様で、青白い月夜を見上げながら、晩酌が楽しめるようになったという訳。
「くしゅっ……んん……」
 室内から、可愛らしいくしゃみがひとつ。
 振り返ると、沙都子が寝返りをうっておへそを放り出していた。思わず頬が緩む。
 私は窓枠から腰を降ろし、沙都子のお腹にそぅっと布団を掛けた。抱き締めてしまいたくなる、無邪気な寝顔。
 ――今まで、どれだけの絶望的な夜を、この寝顔に救われて来ただろうか。
 起こさないようにと気を付けながら、その頭を撫ぜた。さらさらと指の隙間を零れ落ちていく、綺麗な黄金色の髪。
 浜辺の砂って……こんな風に、輝いているのかしら?
 去年の夏は、プール止まりだった。
 まだ見ぬ砂浜の情景に想いを馳せながら、私はいつまでも柔らかな感触に心を遊ばせた。

「……あぅあうぅ~」
「あら。起きたの羽入」
 夜風に誘われたのか、それとも私の感覚を共有したのか、沙都子の隣で眠っていた羽入が、突然むくりと上半身を起こした。
「あう? あううぅ? ……り、梨花、またワインを飲んれますね? ころもは、お酒を飲んれは、いけないのれすよ~……はふぅ」
 目がトロンとしているのは、寝ぼけているからかしら。それとも私の飲み物のせいかしら。
「やあね。お酒なんて飲んでないわよ。これジュースよ。ジュース。ほら、甘くて美味しいでしょ?」
 左手のグラスに口をつけ、半分ほど残っていた白い液体を喉に流し込むと、ほぼ同時に羽入の喉も上下に動いた。
「あぅ、確かに甘いれす……けろ、やっぱり僕の目が、ぐるぐる回るですよぅ~?」
「もう私にお酒なんて必要ないのは知っているでしょう? ――もう、自分の未来から目を背けて、アルコールに逃避する必要なんてないんだから」
「……そうれした。ごめんなさいなのれす、梨花。……でも……やっぱり、あうあうクルクル~」
 そう。もう私はアルコールに逃げる必要なんてない。欲しい未来を、この手に掴んだのだから。
 逃避の為の、情けない飲酒はきっぱりとやめたわ。

 だからこれは私の趣味。
『甘酒』なんて、『ワイン』に比べたらジュースみたいな物でしょう?

「いいからあんたもこっちに来て月見に付き合いなさいよ」
「はうあう。梨花の為ならどこまでも~……なのれすぅ」
「……ばっちり酔ってるわね。あんた」
 ホントにアルコールに弱いわね。甘酒程度でここまでフラフラになっちゃうなんて情けない。
 窓枠に座らせると危なっかしいので、私は羽入を窓際の畳に座らせた。
 ちょうど良い高さに来た窓枠に顎だけをチョコンと乗せ、羽入は赤い顔で、あぅあぅと鼻歌を歌い出す。可愛い神様も居たものね。
 その頭を撫でながら、月夜に心を遊ばせる。
 白磁に輝く月は、暗い夜空を青藍に染め上げ、一層に美しかった。
 静かな夜。
 不意に、クスリと笑いが漏れる。
 昼間の賑やかさを思い出したのだ。今日の私達は、賑やかで馬鹿馬鹿しくて、素敵に楽しかった。
 そんな大騒ぎをした私が、今はこうして黄昏れている。そのギャップが可笑しくて、笑いが漏れた。
 赤い顔をしながらも、羽入はそれを理解してくれていた。
「今日も楽しい一日れしたね。梨花♪」
「ふふふ、そうね。本当に愉快な一日だったわ」
「やっぱり今年も、梨花より沙都子の方が『ないすばでー』らったのれすよ。あぅ~♪ でもれも、僕の方がもっともっと『うるとらないすばでー』だったのれす~。あうあう~♪」
「なっ? なに良い気になってるのよあんたっ。ちょっとだけでしょっ? ほんのちょっとだけ胸が大きかったからって……し、身長は私の方が勝ってたんだからねっ!」
「僕は、始めて『身体測定』を体験したろで、とってもとっても楽しかったのれすよ~」
「反論ぐらいしなさいよっ」
 ムキーッと歯を剥き出しながら頭をポコポコと叩いたけれど、羽入はニコニコと笑うだけだった。
 こんちくしょっ、来年みてなさいよ。

 昼間のお転婆な姿からは想像も出来ないお淑やかさで、スヤスヤと静かに眠るもう一人の成長ライバル、沙都子に視線を移す。
 ああ、なんて可愛い寝顔なんだろう。
 こんなに可愛い沙都子だから、私よりも(ちょっぴり)胸囲の成長が早かった事は、許してあげるわ。
 羽入も別に良いわよ? うん。別に良い。
 ただ、明日の朝食はキムチの漬物を食べる。
 絶対食べる。
 真っ赤っかなやつ。

 あと数年もすればきっと沙都子は、『可愛い』から『綺麗』に変身していくんだろう、なんて思う。
 私だって今のままでは無いだろうし、環境だって変化していく。
 そうなっても私達は、一緒に居られるのかしら……。私がお布団に潜り込んでも、許してくれるのだろうか?
 鮮明に輝く月が、夜空に浮かぶ雲を蒼白く照らし出している。
 日中の雛見沢も、とても良い天気だった。
 そよぐ風は春の温もりを優しく運んでいて、青空に浮かんだ真っ白な雲は、まるで綿菓子の様だった。
 今日の雛見沢分校は、それはそれは賑やかで……さっきも言ったかしら?
 ――それがどんなカケラだったのか、あなたも覗きたい?
 いいわよ。貴方にも見せてあげる。今日の、私達の大切なカケラ。
 ……あら? そんなに心配しなくても大丈夫よ。
 惨劇も祟りも、もう在りはしないのだから。
 あったのは、喜劇と……そうね。ちょっぴりの悲劇だけ。
 さあ、覗いてみましょう? 今日の私達の、楽しいカケラを――。

 --------------------------------------------------------------------------------

「おぉ? すっげぇ集まってるじゃねえか。五~六十人は居るんじゃないか?」
「あっはは。圭一君驚いてる驚いてる。レナもね、去年はビックリしたんだよ。だよ」
 土曜日の午後。いつも賑やかな雛見沢分校は、それ以上に賑やかだった。
 放課後の校庭に子供達が集まって騒いでいるのは、いつも通りの風景だけれど、その人数が半端じゃない。
 レナが言うには、今日は一斉身体測定の日なのだそうだ。
「輿宮の学校に通っていらっしゃる皆さんも集まってございますからね。雛見沢の子供は全員集まっていましてよ」
「なるほどな。道理ですげえ人数な訳だぜ」
 思っていた以上に、雛見沢には子供が居たんだな。と言っても、都市圏では、一クラスとちょっとって人数だろうけれど。
 良い天気だった。できれば身体測定なんて放っておいて、この大人数で遊びたいぜ。
 沙都子と梨花ちゃんは、早速人混みに紛れてはしゃいでいる。……羽入はどこに行ったんだろう? 一緒に集合して来たから、ここに居るのは間違いない筈だけれど。
 まあどこかで誰かに捕まっているんだろう。転向してきて以来、あいつは大した人気者だからな。
 魅音は実家の用事とかでまだ来ていなかった。さすが遅刻常習犯の名前は伊達じゃない。
 俺はと言えば、昨日の二時間テレビドラマ『サスペンスどうでしょう』の話で、レナと盛り上がっている。
 それぞれ思い思いに時間を潰し、俺達は身体測定の準備が整うのを待った。

「しっかし変わってるよな。身体測定なんて普通、学校ごとにやるもんだろ?」
「ちょうど監督の診療所ができた頃からでしたかしら? 村の皆さんを集めての、合同身体測定になりましたのよ」
「圭一は、皆で集まるのがお嫌いですか?」
「そんな事は無いぜ梨花ちゃん。お祭り騒ぎは大歓迎だ。――ただちょっと、変わってるなって思っただけさ」
「雛見沢は子供の数が少なくございますから。手間が省けて、よろしいんじゃごさいませんの?」
「みー。入江は、横着さんなのです」
「あっはは! うんうんそうかもしれないね。監督は、横着さんなんだよ。だよ」
 レナがにこやかに相槌を打った後、俺にだけ聞こえるように呟いた。

「……それと、『雛見沢症候群』の検査も含んでいるんじゃないかな、って……思うの」

 成る程。
 ――恐らくレナの想像は、間違っていない。
 身体測定の名目にかこつけ、気付かれない様にそっと、病状のチェックもしているのだろう。
 俺の第二の故郷、雛見沢村。
 愛すべき、のどかな寒村に蔓延しているという恐ろしい病気、雛見沢症候群。
 このウィルス性精神感染病の大きな特徴は、人の心に疑心暗鬼を植え付け、常軌を逸した凶暴性を与える事だ。
 そしてこいつは一度発病してしまうと、今の医療技術では完治が望めないらしい。
 そんな難病に、雛見沢村に住まう住人はほぼ全員が感染していて、潜伏させているのだと監督は言う。
 何とも厄介な病気だ。苦い思いに胸を重くなり、俺は沙都子に視線を移した。
 嬉々として梨花ちゃん達とはしゃぐ沙都子。
 小憎ったらしい癖にちっとも憎めない、妹みたいな存在。
 
 去年の初夏……沙都子は発病してしまった。

 怯えきり、憎しみの瞳で俺を見る沙都子の顔。
 棘の様なあの眼差しは鮮明に――俺の心に刻まれた。
 忘れる事ができない。
 今でもふと思い出す度に、ぐずりと心臓を掴まれる様な苦しさに追いやられる。

 酷い話じゃないか。……なんでだよ? 
 両親を亡くしたんだぜ?
 ただ一人頼りにしていた兄貴は、居なくなっちまった。
 ――その上、病気だと?
 梨花ちゃんと二人、小さな子供だけで、頑張って生きてきたんじゃないかよ。
 ついこの間まで村八分にされてたのだって、必死に耐えて来たんだぞ。
 やっと、それから解放されたのに。
 何で沙都子ばかり酷い目に会わせるんだよ。
 おかしいじゃないか。
 これが天の神様の采配だって言うんなら、俺はもう、あんたには手を合わさない。
 何か沙都子に恨みでもあるのかよ。
 えぇ? オヤシロさ―― 
「圭一君、怖い顔…………」
 シャツの袖を引かれる感触とその声に、はっと我に帰った。
 横に目をやると、不安そうな……いや、寂しげな顔をしたレナが、俺の顔を覗き込んでいた。
 寂しげなレナは俺と視線を合わせると、励ますようにオズオズと笑った。
「違うと、思うの」
「違う? ……何がだよ」オヤシロ様に悪態を吐いた勢いを残したまま、言葉を放つ。
「え、えとえと……あ、あのね」オロオロとレナは一旦言葉を切り、コホンと一つ咳き込んだ後、続けた。
「心配はね……必要ないんだと思うの。だってね、沙都子ちゃんは強い子なんだよ。――誰よりも強い子であろうと努力してる、頑張り屋さんなの。私達はそれを一番良く知っているんじゃないのかな。かな?」
「――ああ。それはそうだよ。だけど」
「だからね、心配なんて必要ないの。だって沙都子ちゃんは、心配して欲しくて頑張っているんじゃないだもの。私達は、『沙都子ちゃんは強いね!』って、認めてあげれば良いんだよ」
「そりゃ……そうかも知れないけど……」
 それって結局、何もしてやれないって事じゃないのか?
 あいつの苦しみを知っているのに何もしてやらないで、ただ楽しい時だけ一緒にいるなんて……それで本当に『仲間』って呼べるのか?
「なってると思うよ」
「え?」
「私達はね、沙都子ちゃんの力になれてるの」自信たっぷりの朗らかな笑顔を湛えつつ、レナはそう言い切った。
「自分の辛い部分を知った上で、普通に接してくれる人が居る。それはね、とても嬉しい事なの。――レナは知ってるよ」
「……そんなもんかな」
「うん、そう。そうなんだよ。だよ」
「んん……じゃあ何か? これからも、いつも通りに部活をして、トラップに引っ掛かって、あいつを追い掛け回して……レナにパンチ喰らってノックアウトされてるだけで、俺は沙都子の力になれてるって事に、なるのか?」
 あははと笑いながら、レナは「そうだよ」と言った。
「それにね、圭一君」
「ん?」
 レナは明るく微笑んだ。
「病は気から……でしょ? 笑うことはね、どんな病気にだって一番の特効薬なんだよ。だよ!」
 そう言ってレナは微笑んだ。
 春の風が花の種を運ぶように、その微笑みは俺の頬にも芽吹く。
「……へへっ。上手い事言うじゃないかレナ。そっか……そうだよな! 元気を与えてやるのが、仲間の役目だよなっ」
「うんうんっ。そうだよそうだよ!」
「よっしゃぁ! そう言う事なら任せとけっ。その分野に関しちゃあこの前原圭一、監督に勝るとも劣らない名医だぜ!」
「はうっ。名医で白衣の圭一君、きっとかぁいいんだよ~。おっ持ち帰りぃ!」
 暗い思考を、俺達は腰に手をあてて大声で笑い飛ばした。元気一杯なその声は、沙都子の耳にも届く。
「何ですの突然お二人共。オツムは大丈夫でございまして?」
「ほっほう? ブロッコリーとカリフラワーも見分けられないお子ちゃまが、大きな口を利いてくれるじゃないか」
 ワンピースの後ろ襟をヒョイとつまんで持ち上げ、俺はマグナムデコピンに弾薬をこめる。 
「ほぅれほれ。これか? これが欲しいのか? んん?」
「ひ、ひぅっ」
 親指の安全装置がプルプルと震え今にも外れそうになると、沙都子は半ベソをかき始めた。
「ふわあぁあんレナレナぁ~」
「あ、くそっ! そういつもいつも同じ手にやられる俺様だと思うなよ……って……あれ?」
 レナパンは飛んで来なかった。何を思ったのか、レナは俺に吊り下げられた沙都子の後ろにしゃがみ込んでいたのだ。
 その頬は緩みに緩みきって、目尻も垂れ下がりまくっている。こりゃああれだ。いわゆるいつもの「かぁいいもの」を見つけた時の顔だ。
 あ、鼻血出た。どうやら見つけた物は超一級品らしい。
 でも一体何を? 
「泣いてる沙都子ちゃんかぁいいよぅ~」なら、もうとっくに俺はレナパンの餌食の筈なんだが……。
「レ、レナ? 何やってんだ?」不思議顔で問う俺。
「はぁう~。沙都子ちゃんのクマさんパンツ……。かぁいいんだよぅ~」レナは手の甲で鼻血を拭きつつ笑顔で答えた。
「みっ☆ 僕もそれは大好物なのですよ」
 ここまでの成り行きを微笑みながら傍観していた梨花ちゃんだったが、「クマさんパンツ」の単語に反応するとトコトコと走り寄り、レナの側にチョコンとしゃがみ込んだ。
 ――ああそうか。一拍の間を置いて理解。
 俺が沙都子の後ろ襟を掴んでるもんだから、ワンピースのお尻側が持ち上がっちまって、パンツ丸出しなのか。そりゃお笑いだ。
 俺に遅れる事さらに一拍。やっと沙都子も事態を把握した。
「むがーっ。お止め下さいましこの変態コンビッ! け、圭一さん、早く降ろしてくださいませーっ!」
 真っ赤になってスカートのお尻を押さえつつ、足をバタバタさせて必死に二人の変態を追い払う。
 が、抵抗虚しく、ヒョイヒョイとそのキックを華麗に笑顔で躱すレナと梨花ちゃん。もちろんクマさんパンツ観覧ポジションはキープしたままだ。
 真っ赤な顔で、半べそかいたり怒ったり笑ったり。
 恥ずかしがる沙都子が、無性に可愛らしかった。
「ははははっ! こりゃいいや。よし沙都子、この変態共から逃げるぞ!」
「へっ? ちょ、ちょっと圭一さん?」
 俺は沙都子を摘んだまま、人ごみを掻き分けて走り出した。
「あっ、クマさんが逃げたよ梨花ちゃん! 追っかけてお持ち帰りしなくちゃ!」
「み~☆ あのクマさんは僕のなのです。追いかけましょうなのです」
 レナと梨花ちゃんはお互いの手を打ち合わせ、俺達の後を追いかけて来た。上等! 追いかけっこ勝負ってか!
「わはははは甘いぜ捕まるかよっ。皆すまねぇ道を空けてくれっ! 変態からお姫様を逃がしてくれーっ」
「ふぇ、お、お姫様?」お姫様と言う単語に沙都子は更に頬を赤らめた。こういう所は歳相応にお子様だな、と思う。
「おおそうだお姫様だお姫様っ。俺は後ろが見えねえからな。追っ手の状況報告頼むぜ、お姫様!」
「そそ、そんな事おっしゃいましても、こ、こう揺れては何も見えませんでしてよ」
「確かに俺もこのままじゃ走り辛いな。……よし、じゃあこうだ!」
「ふわ?! ふわわわわっ!!」
 吊り下げていた沙都子をそのままの向きで、よいしょっと抱っこした。
 赤ちゃんにミルクを飲ませた後、背中をポンポン叩いてゲップさせるだろ? あの体勢だな。
 背中とお尻に手を回して抱えると、沙都子の体は想像以上に軽かった。
 ――こんな小さな体で、意地張って……精一杯頑張って来たんだな、こいつ……。
 またシリアスな考えに染まりかけた俺の脳みそを、耳元で響く金きり声が切り裂いた。
「圭一さんっ! 後ろ、来てますですわよっ。速度上げてっ」
「~~っ! 耳元で怒鳴るなって。分かってるって」
「いーえ、分かってございませんわっ。御自分の目で状況を確認なさいませっ!」
「をぅっ!?」むんずと両手で頭を掴み、沙都子は無理矢理に俺の顔を後ろに向かせた。
 首を捻挫しかけた事に文句を言おうとした俺だったが、その言葉は目の前の光景のインパクトに掻き消されてしまった。

 カメレオンの様に舌を伸ばし、マフラーのように鼻血をなびかせながら迫り来る、変態同級生。
 笑顔なのに目だけが異様に真剣で、黒いオーラで背後を霞ませつつ迫り来る、親友変態下級生。
 得体の知れないクリーチャーが、もう寸前まで迫っていた。

「ここ、こっ怖えぇええっ!」
「だから言ってるではありませんのおおぉっ! ああなってしまったレナさんと梨花に捕まったら、ただでは帰れませんわよっ」
「よよ、よしきた逃げるぞ沙都子ぉっ!」「はいですわっ!」
 沙都子を抱えたままと言うハンデを物ともせず、俺の脚は、我ながら素晴らしいスピードで地を蹴り始めた。
 火事場のバカ力という奴だ。都会のもやしっ子だった俺は、もう居ない。
 この一年間こいつらと一緒に真剣に、それ以上に楽しくバカ騒ぎしてきた俺の体は、もうすっかり田舎のガキ大将クラスのポテンシャルを持ち、それを引き出す事が出来る様になっていたのだ。
 とは言えそれはレナや梨花ちゃんも同じ。俺はやっと彼女達と同じステージに立てただけだ。一旦は開いたレナ達との距離は、またもやみるみる縮んで行った。
 俺の背中に、レナの手が触れそうになる!
 だが――俺『達』は捕まらない。
「圭一さん右にステップ! 次は左にターンしてっ」
「おうよっ!」
 沙都子の指示通りにステップを踏み、ターンし、駆ける! 背後でドスン、という音が響く。
「はぅっ。ごご、ごめんなさい~」「みぃ~。ごめんなさいなのです」
 沙都子の指示が飛ぶ度に、レナは他の子供達にぶつかり、梨花ちゃんは足を引っ掛けて転びそうになり、俺達を見失った。
 この人ごみは俺達に……いや、沙都子に味方した。
 見通しの悪さに加え、不規則に動く人の群は、即席のトラップフィールドを沙都子に与えていたのだ。
 上空から見下ろすかの様な、的確な沙都子の指示。それを迅速に実行する、俺の軽快なステップワーク。人馬一体の俺達は、人ごみを掻き分け、逃げる逃げる!
 さっき沙都子を抱えている事を、ハンデと言ったっけ? 悪い、撤回するぜ。
 俺達コンビは、最強だ!
「わははははは! 楽しくなってきたじゃねえかっ。なあ沙都子っ?!」
「ほーっほほほほ。お間抜けな圭一さんでも、わたくしとコンビを組めば、良い働きができますのね」
「ちぇ、言ってろ!」「ほら圭一さん、その子を右にかわしてっ」「ほいきたっ」
 耳元から聞こえる、笑いを含んだ快活な声。
 俺達をはやし立てる皆の声
 後ろから追いかけてくる、愛すべき変態達の笑い声
 あんまりにも楽しくて可笑しくて、俺は疲れを忘れて走り続けた。
 ――おい見てるか? 得体の知れない伝染病。
 こんなに俺達は元気一杯だ。お前の入り込む隙なんて、ありゃあしないんだ。とっととどこかに行っちまった方が良いんじゃないか?
 一陣の涼やかな風が校庭に吹き、俺の問いに答えた。
 匂う春風が、すきっと頬を撫ぜて行く。
 いたいのいたいの、とんでいけ――。
 俺は小声で呟いてみた。
「くっくっくっく。酷いじゃないのさ皆ぁ。あたしを除け者にして、なに楽しそうな事してんのさーっ。あたしも混ぜろーっ!」
「おぉっ。遅かったじゃないかよ魅音!」
 声のする方を見やると、校庭の入口から魅音が駆けて来ていた。
 文字通り駿馬の様にポニーテールを揺らし、駆け寄る笑顔。その後ろにも、同じ笑顔がもう一つ。
「沙都子ーっ。ねーねーが助けに来ましたからね。もう安心ですよ!」
 その声を聞き、耳元の沙都子の声が朗らかに跳ねた。振り向いた小麦色の綿毛が俺の頬をくすぐる。
「良いタイミングですわ詩音さんっ。助けて下さいませーっ」
「んー、もうっ。だぁめです沙都子。ちゃんと『ねーねー』って呼んでくれないと、助けてあげませんからっ」
「やっ、止めて下さいませ詩音さん! こんな大勢の前でーっ」
 どっと暖かな笑いが渦巻いた。沸き起こるねーねーコールに、照れた沙都子は俺の頭をポカポカと叩き、詩音はスターの様に手を振り返した。
 俺達が手に入れた世界が、ここにはあった。
 そうこうしている内に校舎から監督が現れ、大騒ぎに驚きながら、身体測定の準備が整った事を告げた。

―― 後編に続く ――

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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

うふふふふふふふふふふふふふふふふふうふふふふふふうふふふふうふふふふふうふふwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

【2009/02/19 20:41】 URL | けーすけ #o.trGIrQ [ 編集]


>けーちゃんへ
ぐへへへへへへへへへへへへへへwwwww
【2009/02/20 02:26】 URL | cvwith #- [ 編集]


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Author:cvwith
岡山に生息。
カレーは混ぜてから食べる派です。
「ひぐらしのなく頃に」の二次創作を中心に、ショートストーリー(SS)を書いています。
「うみねこ」もちらほらとやってます。
いずれオリジナルも書いてみたいと野望を持っております。

メアド : kdksf1@mail.goo.ne.jp
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感想・ご意見・イラストなど随時激烈に大歓迎中です!



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